3 SWEET DREAMS(スウィート・ドリームス)

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 文目は腕時計から目を離すと、顔を上げた。 「――はい、私、やってみます」  文目が柊の瞳を真っすぐ見ながら言うと、柊は頷いた。 「うん、文目ちゃんなら引き受けてくれると思った。――ちょっと待っててね、今、その生徒さんを連れて来るから」  柊はいつも四柱推命の講座をやっている文目の部屋の真下のサンルームへ一旦入った。  そして、少しして一人の女性を連れて文目の元へと戻って来た。  文目も何回か言葉を交わしたことがある、日曜日の四柱推命の初級講座に通ってきている女性だった。  確か名前は「梨木藤子(なしきとうこ)」と言っていたような気がする。  年齢は文目よりも上だろう、三十歳くらいだろうか。日曜日だと言うのに、まるで役所や銀行に出勤するかのようなキチンとした格好をしている。  白いシャツをベージュ色のタイトスカートにインして、細めの黒いベルトを付けている。履いている少しヒールのある靴もベージュ色で、ストッキングも履いていた。  そして、ベルトと同じ黒縁のメガネをかけている。  メガネをしているからかもしれないがアイメイクはほとんどしておらず、代わりに濃い目の口紅を付けていた。  真面目は人なのかな……と文目は藤子のことを見て思ったし、前々から「真面目な人だな」と感じていたことを思い出した。  柊はいつも和服姿だし、文目も講座の手伝いをするときは助手として和服を着ないまでもそれなりにキチンとした格好をするように心がけている。ちなみに文目の今日の格好は生成りっぽい色のカーディガンに黒いひざ丈のフレアスカートだった。  ただ、講座を受ける生徒の方は服装の規定などはもちろんないし、それこそ楠が好むようなジーンズなどのラフな格好の人がほとんどだった。  そんなラフな格好の生徒の中でも、藤子はいつもタイトスカートみたいなキチンとした格好をしていたから、ある意味目立っていたような気がする。  藤子は文目に深く頭を下げると、「宜しくお願いします」と言った。  文目も慌てて頭を下げて「宜しくお願いします」と返した。 「――じゃあ、文目ちゃん、宜しくね。サンルーム、自由に使っても良いから」  柊は笑顔を残して、文目と藤子の元から去って行った。  *  サンルームの中は相変わらず外からの陽の光が差し込んで眩しいくらいに明るい。  サンルームのイスに向かい合って座ると、藤子は改めて文目に「宜しくお願いします」と頭を下げた。  文目も「宜しくお願いします」と頭を下げながら、藤子のどんな感じにタロットの説明すればよいのだろうかと考えた。  柊は藤子が「タロット占いに興味がある」と言っていたが、そうすると最初は説明と言うよりも「タロットカードはこんな感じで占います」みたいな感じに試しに占ってレクチャーした方が良いのだろうか。 「柊さんに……、津々地(つつじ)先生に梨木さんが『タロット占いに興味がある』と聞いたんですが、今日はどうしましょうか? とりあえずタロット占いがどういうものか説明する前に実際に何か試しに占ってみましょうか? 何か占ってほしいこととかありますか?」  文目が切り出すと、藤子は「実は色々と悩んでいて……」と言いにくそうに口を開いた。
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