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「――どうしたんだよ、お前?」
「――どうしたの、文目ちゃん?」
声を掛けられて、文目は慌てて顔を上げた。
目の前では柊がいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、文目の方を見下ろしている。
文目はジッと柊の顔を見た。
気のせいだろうか、今、柊に声を掛けられる前に、楠の声を聞いたような気がしたが……。
「すみません、何でもないです。――そっ、そう言えば、柊さんが出席する結婚式はいつなんですか?」
文目は慌てて誤魔化すように話題を変えた。
「ああ、再来週の土曜日だよ。僕のお客様とか知り合いで出席する人も結構いるから、今から楽しみなんだ」
「再来週の土曜日……」
再来週の土曜日と言えば、藤子の上司の結婚式と同じ日だ。
(――ただの偶然なのかな? それとも、やっぱり本当に同じ人なのかな?)
文目が考えていると、二階の階段の脇に置いてある固定電話が鳴り始めた。
「――ああ、僕が出るよ。文目ちゃんはもしなら講座の準備をし始めてて」
柊は電話を取りに階段を登って行き、文目は柊に言われた通り講座の準備をしに一階のサンルームへと行った。
文目がサンルームで書類などを並べていると、電話を終えたのであろう柊がサンルームに入って来た。
「電話、梨木さんからだったよ。今日、急用が出来て来られなくなったって。蓮見さんにもお伝えくださいって言ってた」
「そう、ですか……」
文目はまた胸がドキッとする感じを覚えた。
藤子だって仕事もしているしプライベートもいろいろとあるだろうし、急用が出来て来られなくなることもあるだろう。
でも、何故か文目は胸騒ぎみたいな、ドキッとする感じを覚えたのだ。
(――ただの気のせい、来週はきっと来るはず。だって、再来週は結婚式だし)
文目は自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
*
一週間後の土曜日。
文目は自分が感じた胸騒ぎが的中してしまったことを知った。
土曜日の藤子が通っている四柱推命の講座が始まる前にまた固定電話が鳴り、藤子から「今週も休む」と連絡が入ったとのことだった。
「――えっ? 今週も梨木さん、お休みなんですか?」
柊から藤子が休むことを聞いた文目は、思わず驚きの声を上げてしまった。
「うん、何だから慌てた感じに言って電話が切れてしまったから、理由までは聞けなかったんだけど……。声は元気そうだから具合が悪いとかではなさそうだけどね。また急用が出来たのかな?」
さすがの柊も不思議そうに首を傾げた。
(――梨木さん、どうしたんだろう?)
もちろん、本当に藤子に急用ができたことも考えられる。
でも、やっぱり文目の心には何か「胸騒ぎ」みたいなものが過るのだ。
文目は藤子に連絡してみようとも思ったが、余程のことがない限り占いのお客様や生徒さんには個人的には連絡しないということになっているし……、と思い留まった。
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