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藤子が自販機で買って来てくれたスポーツドリンクを飲みながら、文目は心の中でため息をついた。
藤子を追いかけようと全力で走った文目は、軽く貧血のようなものを起こしてしまったらしい。藤子に支えられながらベンチに座り、冷たいスポーツドリンクを飲んで具合はかなり良くなったが、体調とは逆に文目の気持ちは晴れなかった。
(――情けないな、私)
具合が悪くなったからと言って、藤子を追いかけたことに後悔はしていない。ただ、「藤子の悩みが晴れるように頑張ってみよう」と思った矢先に、頑張らなくてはいけない自分が当の藤子に介抱してもらうなんて、情けなくてしょうがない。
「――蓮見さん、顔色良くなってきましたね」
文目の隣に座っていた藤子がホッとしたような表情をした。
「すみません、こんなことになってしまって……」
文目は藤子に頭を下げた。
「いえ、いいんですよ。それよりも回復して良かったです」
藤子は笑顔を見せた。
文目は藤子の笑顔をジッと見つめた。
藤子が笑顔を見せてくれたのが意外だったからだ。
さっき、藤子は確かに自分から逃げようとしていた。でも、今は自分に寄り添って笑顔を見せてくれている。
もちろん、自分が突然具合を悪くしてしまったということもあるのかもしれないが、回復した自分を見てこんなにも安心した笑顔を見せて、回復してもまだ隣にいてくれるのが意外だった。
「――すみません、あの、梨木さんを追いかけたりした上に、具合まで悪くなってしまうなんて……」
文目はもう一度、藤子に頭を下げた。「梨木さんが私のことを見て、理由はわからないんですけど離れようとしたのはわかりました。でも、私、どうしても梨木さんのことが気になって、追いかけたりなんてしてしまって……」
「いえ、いいんですよ。――こちらこそ、すみません、確かに私、蓮見さんを見た瞬間に、その、逃げ出そうとしてしまったのは事実です」
「やっぱり、そうだったんですね……」
「でも、蓮見さんが私の名前を呼びながら追いかけて来てくれて……。私、ビックリしたんですけど、嬉しかったんです。蓮見さん、私のこと、本当に心配して追いかけて来てくれているんだなって思って。だって、蓮見さん、いつもはふんわりとしたような優しい雰囲気の方なのに、あんな真剣な表情で全速力で追いかけて来てくれて……。
私、いろいろとあって蓮見さんや津々地先生に会うのが気まずくて、二回も銀葉館の講座を休んでしまってすみませんでした。
――もう、自分に自信がなくなってしまったんです、何もかもに。自分でも最低だと思うんですけど、上司の結婚式の披露宴も、当日に仮病を使って行かないでおこうかと思っていて」
「どう、したんですか?」
文目が思わず訊き返すと、藤子は小さなため息をはいて、顔を俯かせた。
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