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「蓮見さんはきっとご存知だと思うんですけど、銀葉館の四柱推命の講座にいらっしゃってる桜田琴子さんという方がいますよね? その方、実は私の上司と今度結婚する予定の方なんです」
「――」
まさかとは思っていたが、やっぱりそうだったんだ……と文目は心の中で呟いた。
「銀葉館で四柱推命を習っている別の方とか、上司が話しているウワサが私のところにも聞こえて来て……。
上司が選んだ方だから素晴らしい女性だってことはわかっていたんですけど、四柱推命の勉強もものすごくできるって聞いて、私、何だか悲しくなってしまって……。
私、占いの勉強では誰にも負けないように頑張って来たつもりなんですけど、どんなに頑張っても、自分には到底敵わない人がいるんだなって思ったら、何もかも頑張るのがイヤになってきてしまったんです。
だから、私、四柱推命の講座も披露宴のスピーチも、何もかも放り出したくなってしまって……。
自分でも子供っぽい理由だなってことはわかってるんです。そんなこと思わずに講座へ行かないとって思っても、何だかこんな理由で休んでしまって蓮見さんにも津々地先生にも申し訳なくて、なかなか足が進まなくて、だから、この間の講座も休んでしまったんです。
蓮見さん、あんなに必死になって私のことを追いかけて来てくれるくらい心配してくれていたと言うのに、本当にすみません……」
藤子が文目に深々と頭を下げた。
文目は藤子が頭を下げると、慌てて首を横に振った。
「そんな……。私こそ、梨木さんが気まずいから離れようとしたのに、追いかけたりしてすみません。
でも、やっぱり、梨木さんのことがどうしても気になって……。その、梨木さんのことが全然他人ごとに見えなかったんです。私も、梨木さんと同じだったから……」
「同じ?」
藤子が驚いたように顔を上げた。
「私、新潟の銀葉館に来る前は、ずっと高崎市に住んでいたんです。そこで毎日『このままでいいのかな?』って思いながら暮らしていたんですけど、結局、その毎日から抜け出すことが怖くて、何も出来なかったんです。『このままはイヤだ』って自己主張をすることが怖くて、できなかったんです。
そんな時、働いていた職場で好きな人が出来て……。
社会人になりたての私に仕事の内容とか親切に教えてくれた男性の先輩で、気づいた好きになっていたんです。
でも、好きな人が出来たのに、今まで自己主張したことがないから、どうやって好きな人に好きになってもらえば良いのかわからなくて、結局、その人は同じ職場の別の女の人と結婚してしまったんです」
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