3 SWEET DREAMS(スウィート・ドリームス)

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 柊に「僕の生徒さんでタロット占いに興味があるっていう人がいるんだけど、ちょっとタロット占いの説明とかやってみる?」と言われる前に見た、あの夢……。  あの夢は、前に勤めていた職場で好きだった人の結婚式の夢だ。  結婚式の招待状は来たものの、出席するのがツラくて「欠席」の方に丸を付けたというのに、未だに出席しなかった結婚式の夢を見てしまう。  夢の中だと言うのに、「ウェディングドレスを着て好きな人の横を歩いているのが自分だったら」という「甘い夢」も、何度思い描いてしまったことか……。  こんなに何度も夢を見てしまうのであれば、むしろ結婚式に出席して自分の気持ちに区切りを付けた方が良かったのではないかと何度思ったことか……。 「――」  藤子はただ黙って、文目が話すのを聞いていた。 「相手の女の人も私にものすごく親切にしてくれた先輩で、この人だったら好きな人も好きになるだろうなって思ったんですけど、やっぱり、気まずくて辛くて、結婚式の招待状も届いたんですけど、理由を付けて欠席にしてしまって……。  失恋したのがツラいからという理由だけではないんですけど、その職場を辞めてしまって次は占いの仕事をしようかと思っている時に、たまたま用事で新潟に行って、柊さんに再会して、銀葉館に来ないかって誘われて新潟に引っ越して来たんです。  だから、梨木さんの上司のお話を聞いた時、何だか他人ごとに思えなくて……。  それに私、結婚式に出なかったことにずっとモヤモヤとした気持ちがあって、出た方が気持ちに区切りが出来て良かったんじゃないかってずっと後悔していたんです。  せめて、梨木さんには結婚式に出て、気持ちにキレイに区切りをつけてもらいたいなって、結婚式に出なかったことを後悔してほしくないなって……。  だから、スピーチのお手伝いをしよう、そう思ったんです。  すみません、何と言えば良いか……。自分のやれなかったことを押し付けるような感じになってしまうのかもしれないんですが、やっぱり、私と同じ後悔をしてほしくなかったんです」  文目は話し終えると、顔を俯かせた。  もしかすると、藤子は不快に感じたかもしれない、と文目は思った。  自分は好きな人の結婚式に出席しなくて後悔した、だから同じ立場の藤子には結婚式に出席して気持ちに区切りを付けてほしかった。  自分の想いに間違いはないが、人の考え方はそれぞれ違う。  藤子は最初「結婚式の披露宴でスピーチをして、気持ちに区切りを付けたい」と言っていたが、今は行かないでおこうと思っている。  藤子の考えにも間違いはないが、やっぱり自分は藤子に後悔してほしくないし、藤子が不快に感じたとしても、自分の気持ちは伝えたい、と文目は思った。  こういうのを自己満足とかおせっかいというのかもしれないし、少し前の自分なら、藤子の気持ちを尊重して「梨木さんが決めたのなら、結婚式に出なくても良いと思う」と言っていただろう。  でも、父親の言葉の通りに、「これからは自由に生きろ、後悔のないように生きろ」という言葉通りに生きようと思った今は、とにかく藤子に自分の素直な気持ちを伝えてみるだけだ。  藤子に自分と同じような後悔をしたくないという気持ちを、ただぶつけてみるだけだ……。
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