3 SWEET DREAMS(スウィート・ドリームス)

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「――ただいま、文目ちゃん」  柊も文目の方を見ながら言葉を返した。  文目が見とれていることに気付いているのか気づいていないのかはわからないが、柊も文目の方を真っすぐに見つめ返して来る。  文目は自分を真っすぐに見ている柊の笑顔が、ふと一瞬だけ真顔になったような気がした。  もしかして、楠が一瞬顔を覗かせたのだろうかとも思ったが、柊の表情はすぐにさっきの穏やかなふんわりとした笑みに戻ってしまった。 「――どうでしたか? 結婚式」  文目が藤子のことを思い浮かべながら訊いてみると、柊は笑みを浮かべたまま小さく頷いた。 「うん、とても良い式だったよ。――でも、本当に驚いたな。新郎の会社のスタッフさんの何人かがスピーチをしてたんだけど、その中に梨木さんがいたんだ。  文目ちゃん、もしかして知ってた?」 「あっ、はい。あの、何となく……。でも、梨木さん、柊さんも参列するって知ったら緊張しちゃうかなって思って黙っていたんです」  文目はとっさにそれらしい理由を口にした。  さすがに事情も事情なので、文目は柊には藤子が同じ結婚式に出席すると言うことは黙っていたのだ。 「そうだったんだ。僕も驚いたけど、梨木さんも僕に気付いて驚いていたな。でも、ニッコリと笑って僕に会釈してくれて……。  その後のスピーチも本当に素晴らしかったよ。梨木さんが会社に入ってどれだけ新郎に助けられたのか、これからより幸せになってほしいっていうことを丁寧な言葉で語っていてね、周りの人もすごく真剣に聞いてた。  スピーチをしている時の梨木さん、すごく堂々としていてキレイだったな。  ――そうそう、最後にこのスピーチを一緒に考えて下さった方に感謝しますって言ってたよ。文目ちゃん、頑張ったね、お疲れさま」 「はい、ありがとうございます!」  文目は思わず柊に向かって頭を下げた。  頭を下げて見えた自分の足元が、滲んで見えて来る。 (――嬉しい)  文目は目に涙を浮かべながら、何とも言えない喜びを感じていた。  藤子がちゃんとスピーチをやってくれたのも嬉しかったし、周りの人が真剣に聞いてくれたのも嬉しい。  そして、何よりも柊が言った「スピーチをしている時の梨木さん、すごく堂々としていてキレイだった」という言葉が、文目にとっては一番嬉しかった。
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