4 Hello,my friend(ハロー・マイ・フレンド)

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 文目は深々と下げていた頭を上げて、柊の方を見上げた。  柊は相変わらず文目に対して笑顔を見せている。 「柊さんと楠さんのそばでずっと、か……。文目ちゃん、ありがとう、そう言ってくれて」 「あっ、いえ……。こちらこそ、ありがとうございます」  文目は柊が「ありがとう」と言ってくれたのが嬉しかったが、途端に恥ずかしさがこみ上げて来て思わず柊から視線を逸らして顔を俯かせた。  顔を下に向けると、街灯のわずかな光に反射して、父親からもらったあのゴールドの腕時計がキラリと光るのが見える。 (――お父さん)  文目は高崎に残して来た父親に心の中で話しかけた。(――私、お父さんが言った通り、後悔してないから、自由に生きてるから)  だから、何も心配しなくても良いから。  父親が高崎に戻って来てから娘の自分が新潟に戻るなんて、まるで行き違いのような形になってしまったし、もしかすると、もう一緒に暮らすことはないのかもしれないけど、心配しなくても良いから……。  文目が自分のつけている腕時計越しに父親に話しかけていると、ふと自分の視線に入って来るものに気付いた。  和服の袖口から出ている、柊の手だった。  柊の手が自分の腕時計をつけている方の手のひらを包み込むように握って来たので、文目は驚いて顔を上げた。 「僕も文目ちゃんに新潟の僕のそばでずっと占いの仕事をしていてもらいたいと思っているよ。文目ちゃんが新潟に来てくれて本当に良かったと思っているし……。楠も、もちろんそう思っているから」  自分の手のひらを包み込んでいる柊の手が温かい。  その温かさのせいで自分の顔が赤くなってきているのだろうか、と文目は思った。 (――柊さんだけでなく楠さんもそう思ってくれているなんて)  何だか遠回しの自分の告白を柊も楠も受け入れてくれたような気がして、文目は嬉しくなった。 「ありがとうございます。――私、柊さんも楠さんもお二人とも好きです。お二人とも私にとって同じくらい大切な方です。これからもよろしくお願いします」  文目は今度こそ、柊の鳶色(とびいろ)の優しい瞳を見つめながら言った。  文目の言葉を聞いて、柊は一瞬驚いたような表情をした。  文目は柊の驚いた表情を見て、やっぱりいきなり告白するのはマズかったのだろうかと思ったが、次の瞬間、柊は優しそうな笑みを浮かべた。
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