男は世界とクロスする

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雷帝の首筋から一筋の赤い線が垂れる。男はぐっと剣を握る手に力を込めた。動機が早くなる。呼吸が荒くなり心臓の鼓動が次第に大きくなる。 引け!引け!引け!引け!引け引け引け引け引け引け引け!!! 「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」 男は咆哮をあげ、カランと剣を落とした。膝から崩れ落ち雷帝に首を差し出すような形で這いつくばる。男の目には涙。それは何故の涙か。悔しさか?憎しみか?それとも己の不甲斐なさからか?全てだとも言えるが、どれでも無いとも言える。 「う、ぅぅ」 嗚咽止まぬ中、雷帝は男の肩に手をかけた。殺される!そう思うのは必然だ。雷帝が統治するこのオーティムに来て半年、彼女の処刑法はよく見せられた。公開処刑、中には民衆自ら手にかけることもある。彼女の定めたルールの1つだ。王にここまで逆らっておいて生きていた奴はいない。死を覚悟した。いや、スモアが死んだ時からとっくに覚悟はできていた。足りなかったのは勇気だけだ。 「お前、なぜ殺さなかった?」 「お、俺はぁ、う、うぅ、人殺しで、死にたく無い!」 雷帝はその言葉を少し考えていた。いや、そういったパフォーマンスだったのかもしれない。雷帝が何を考えているのかはわからない。人の考えなどわかるはずもないが、彼女は特に謎だ。側近でさえも彼女を理解する者は少ないだろう。そして王の口から出たのは副統括理事長ヤトラをも驚愕させるものだった。
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