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「チョモス、渓谷を落とすかどうかはお前の判断に任せるよ」
「わかりました。カロという少年も私の自由でよろしいですかな?」
雷帝はチョモスの申し出に目を丸くする。
こいつが誰かの人生を自由にしたいと言い出すことがあるとは。
出会ってこの方一度も無かったというのに。
三千体のエキナを掻い潜ったカロに心震わせているのだろうか?
チョモスの声には生気が満ちているように感じた。
「良い。好きに」
チョモスは準備に取り掛かる。リュリューシュケル渓谷まで約2週間の移動。車やバイクといった移動手段はあるがエキナ達をおびき寄せてしまうためあまり使用はできない。つまり歩行での移動である。雷帝はチョモスが部屋を出て行ったあと、しばらくしてベッドへとダイブした。毎日毎日飽きもせず民衆は雷帝を崇める。守ってくれる存在に隠れて生き長らえる民衆を雷帝は我が子のように可愛がった。愛おしかった。だから裏切りがあるのだろう。信じていないから、裏切られるのだ。誰彼構わず受け入れて住処も食事も与えて、調子に乗った奴らは束になって王座を獲得する算段をする。だからわかりやすくて扱いやすくて管理しやすい。絶対なる力を見せつけても反対運動をして民衆をかき乱して、そして無意味な活動を行なって死ぬ。オーティムは虫籠だ。蟲を飼育し、観察するための籠。幹部達はそれを知っている。絶対的な安全圏から雷帝のやることに口出しすることはない。幹部として存在している限り自分たちは蟲になり得ないと思っている。
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