「家族編 いつも?の八栄家」

6/6

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 その後、仕事を終えた後の達成感と食後の心地よい倦怠感によって、僕たちは店内でしばらくだらけていた。  時刻は午後4時を回ろうとしている。  兄さんの入れてくれたコーヒーの香りが、微睡から僕を引っ張り上げた。 「あ、起きちゃった?」  周りを見ると、小姫と姉さんは気持ちよさそうに目を閉じて寝息を立てている。 「今日は無理させちゃってごめんね」  兄さんはそう言うと、コーヒーの入ったマグカップを出した。 「いいや、店が繁盛することはいいことだし。別に迷惑じゃないよ」 「そっか」  兄さんはホッとしたように笑みを見せ、自分で入れたコーヒーを啜った。 「にしても、疲れたなぁ〜……」 「だねぇ……」  僕も、今日を反芻するようにコーヒーを飲む。 「そういえば、雑誌ってどんなの?」  今日の事件の元となったとは言え、やはり気になる。 「それなら……」  兄さんが雑誌置き場から取り出したのは、"日本カフェ街道"という題の物だった。 「へぇー……これか」  表紙には、日本全国を回って撮ったらしいカフェの内装が、コラージュのように載っている。本屋でもちょくちょく見たことがあったし、何より今日の売り上げから見れば、かなり人気なのだろう。 「どれどれうちのカフェは………ん!?」  そこに載っていたのは、ややダサいポーズを決めた優真だった。  いや、店主の写真があるのは普通だ。しかし、おかしいのはその枚数である。もはや90%彼の写真と言っていい。  カフェよりも、店主が目立ち過ぎている……。  僕は思わず目を覆った。  雑誌の知名度うんぬんというより、これは兄さんを目当てに来たのがほとんどだったのでは?  道理で、女性しかいなかったわけだ。  呆然としながらも雑誌を片付けに席を立つと、兄さんの上擦った声が聞こえた。 「わぁ……見て見て! 雪だよ!」  雑誌を置いたついでに窓の外を見ると、白い綿菓子のような雪が、チラホラと降り始めていた。 「おぉ、ほんとだ」  幸いにも降り始めなので、今すぐ帰れば問題ないだろう。 「積もらないうちに早く帰ろう」  僕がそう言うと、兄さんはうん!と頷いた。  僕が姉さんたちを起こしている間に、兄さんは食器を片付けたり、シャッターを閉めたりと店内を忙しなくうろついた。  また今回も、今朝と同様に姉さんの寝起きはすこぶる悪かった。  掃除などがあらかた終わる頃、針はすでに午後5時を指そうとしていた。  外も薄暗さを増してきている。 「よし、無事に傘も見つけたし! 今日はもう帰ろう」  昼食で元気を取り戻した兄さんは、先ほど見つけた不思議なほどでかい傘を掲げる。  小姫は「はーい!」と手を挙げているが、姉さんはまだ眠そうだ。 「ああ」と僕も返事をした。  しんしんと雪が降り注ぐ暗闇を、兄姉弟妹(ぼくたち)は身を寄せ合って帰った。 「ちょ、みつ!もう少し寄りなさい。肩濡れてるわよ?」 「別に僕はいいよ。それより小姫をもっと真ん中にだな……」 「ゆう兄ちゃん、もっと歩くスピード緩めて?」 「ご、ごめん!」  一つの傘の下には、四人が鱒寿司みたいにくっついている。  なんか色々あって大変な今日だったけど、こうやって家族の温もりを感じられるなら悪くない。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加