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その後、仕事を終えた後の達成感と食後の心地よい倦怠感によって、僕たちは店内でしばらくだらけていた。
時刻は午後4時を回ろうとしている。
兄さんの入れてくれたコーヒーの香りが、微睡から僕を引っ張り上げた。
「あ、起きちゃった?」
周りを見ると、小姫と姉さんは気持ちよさそうに目を閉じて寝息を立てている。
「今日は無理させちゃってごめんね」
兄さんはそう言うと、コーヒーの入ったマグカップを出した。
「いいや、店が繁盛することはいいことだし。別に迷惑じゃないよ」
「そっか」
兄さんはホッとしたように笑みを見せ、自分で入れたコーヒーを啜った。
「にしても、疲れたなぁ〜……」
「だねぇ……」
僕も、今日を反芻するようにコーヒーを飲む。
「そういえば、雑誌ってどんなの?」
今日の事件の元となったとは言え、やはり気になる。
「それなら……」
兄さんが雑誌置き場から取り出したのは、"日本カフェ街道"という題の物だった。
「へぇー……これか」
表紙には、日本全国を回って撮ったらしいカフェの内装が、コラージュのように載っている。本屋でもちょくちょく見たことがあったし、何より今日の売り上げから見れば、かなり人気なのだろう。
「どれどれうちのカフェは………ん!?」
そこに載っていたのは、ややダサいポーズを決めた優真だった。
いや、店主の写真があるのは普通だ。しかし、おかしいのはその枚数である。もはや90%彼の写真と言っていい。
カフェよりも、店主が目立ち過ぎている……。
僕は思わず目を覆った。
雑誌の知名度うんぬんというより、これは兄さんを目当てに来たのがほとんどだったのでは?
道理で、女性しかいなかったわけだ。
呆然としながらも雑誌を片付けに席を立つと、兄さんの上擦った声が聞こえた。
「わぁ……見て見て! 雪だよ!」
雑誌を置いたついでに窓の外を見ると、白い綿菓子のような雪が、チラホラと降り始めていた。
「おぉ、ほんとだ」
幸いにも降り始めなので、今すぐ帰れば問題ないだろう。
「積もらないうちに早く帰ろう」
僕がそう言うと、兄さんはうん!と頷いた。
僕が姉さんたちを起こしている間に、兄さんは食器を片付けたり、シャッターを閉めたりと店内を忙しなくうろついた。
また今回も、今朝と同様に姉さんの寝起きはすこぶる悪かった。
掃除などがあらかた終わる頃、針はすでに午後5時を指そうとしていた。
外も薄暗さを増してきている。
「よし、無事に傘も見つけたし! 今日はもう帰ろう」
昼食で元気を取り戻した兄さんは、先ほど見つけた不思議なほどでかい傘を掲げる。
小姫は「はーい!」と手を挙げているが、姉さんはまだ眠そうだ。
「ああ」と僕も返事をした。
しんしんと雪が降り注ぐ暗闇を、兄姉弟妹は身を寄せ合って帰った。
「ちょ、みつ!もう少し寄りなさい。肩濡れてるわよ?」
「別に僕はいいよ。それより小姫をもっと真ん中にだな……」
「ゆう兄ちゃん、もっと歩くスピード緩めて?」
「ご、ごめん!」
一つの傘の下には、四人が鱒寿司みたいにくっついている。
なんか色々あって大変な今日だったけど、こうやって家族の温もりを感じられるなら悪くない。
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