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千鶴との出会い
「猫、好きなの?」
声がする。優しく澄んだ声。
カナタが顔を上げると、目の前には少女の顔があった。カナタの正面にしゃがんで見つめている。あまりの突然の事に、カナタはフリーズした。
「おーい」
そう言って、カナタの目の前で右手をヒラヒラさせる。少女は少し首を傾けて、カナタの顔を覗き込んできた。細くしなやかな髪がハラリと踊り、小ぶりな右耳と首筋が覗く。少し茶色掛かった澄んだ瞳が、カナタの目をじっと見つめている。
カナタはその瞳、風にそよぐ黒くしなやかな髪、そして、上唇の先端がツンとした柔らかそうな唇にしばらくの間、見惚れていた。
随分長い事そうしていたのか、或いは一瞬の事だったのか分からない。カナタははっと我に返る。
「ごっ・・・ごめん。ここ、君ん家? 俺、その、猫を追っかけてきて気づいたら、つい・・・」
何の言い訳にもなってない。子供か俺は・・・。
項垂れるカナタにお構いなしに、少女は続ける。
「この子、ナオっていうの。ナーオって鳴くから」
そう言って人懐っこい笑顔を見せた。
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