千鶴との出会い

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「あ、俺、東高2年の星野カナタって言います」  照れながら、カナタは自己紹介をする。恥ずかしい・・・すっかり、猫に夢中で人ん家に入り込んでたなんて・・・。凹むカナタ。 「あっ、私も高2! じゃあ、同級生だね。星野・・・カナタ君。素敵な名前。」  そう言って、少女はカナタを興味深く観察している。何だか、凄く照れる。カナタはおどけて言う。 「そう?源氏名っぽくない?なんか何時もみんなにからかわれるんだけど、女子とか、初対面でまじ受ける~とか、ひどくない?」 「そんなことない、すっごく素敵。どこまでも自由に飛んで行けそう。まじ・・・?えっと・・・?」 「まじ、受けるって・・・?」 「そう、それ!面白~い♪」  何だか思いがけない所が笑いのツボだったらしい。でも、イイな、とカナタは思う。とても楽しそうな笑顔で少女はコロコロと笑う。 「私は、秋ヶ瀬千鶴。ここの子なんだ。体が弱いから、今は通信制の高校なの」 少女はそう言って、少し寂しそうに笑った。  暖かい、春の匂いを連れた優しい風が吹いた。風はその長くしなやかな髪を撫でる。黒目勝ちな瞳と華奢な体つきの為か、高2の割には少し幼く見えた。  千鶴という名のこの少女は、生まれつき心臓が悪く、度々の発作で危険な状態になったことがあるらしい。そのために今は、通信制の高校に移って自宅で勉強していると言った。だからカナタが現れて、話し相手が出来たことをひどく喜んだ。  二人は家の壁を背にして、庭の長細い石の上に並んで座っている。ナオはいつの間にか、カナタの掌に収まって眠ってしまった。 「この子、すっかり星野君になついちゃったね。あなたの事好きみたい」  そう言って、カナタの掌で眠る仔猫の額をそっと撫でる。子猫に手を伸ばす時、丁度カナタの肩に少し寄りかかるように、体が触れた。瞬間、頭のてっぺんから足の先まで、甘い電流に打ち抜かれた。  猫が、と言う事は分かっている。だけど、彼女の澄んだ声が紡ぐ、『好き』という響きに身体中の細胞がムズムズと踊り出す。
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