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カナタは、これまでのいきさつを話す。自分でも信じられないのだから、いきなりこんな話を信じろという方がどうかしていると思う。呆れてるに違いないと思い、カナタは千鶴の顔を見ることが出来ない。だけど、千鶴の反応は思っていたのとは、ちょっと違っていた。
「じゃあ、星野君は別世界の人ってこと?」
そう言って、千鶴は目を輝かせる。
「別世界っていうか、未来? だと思う・・・え?こんな話信じるの?」
カナタは自分で話しておいて、思わず聞く。
「だって、本当なんでしょ?じゃなかったらこんな時間に忍び込んだりする必要ないし」
忍び込むって、まあ、そうだよなあ。やっぱりそう思われるよな。と凹むカナタ。だけど、正直こんなにあっさり受け入れられると思っていなかった。
この子、頭がいいのか、それとも、頭の中がお花畑なのか・・・。そんなことをぼんやり考えていると、千鶴がふくれ面をして見せた。
「あ、今ちょっと私の悪口考えてたでしょ」
そう言って、カナタを睨む。あれ、だけど口元がちょっと笑ってる。ひょっとして楽しんでない?でも、まあ、いっかとカナタは思う。
カナタはクスクスと笑い、信じてくれてありがとうと言った。
実際、千鶴の思いがけない反応は、途方に暮れていたカナタの心を随分楽にしてくれた。兎に角、千鶴はカナタにとって最強の協力者になった。
秋ヶ瀬家にカナタの居場所を作るための、千鶴の作戦はこうだ。
まず、千鶴がいきなり家族を玄関に呼んで、カナタを紹介する。面と向かって断りにくい状況を作ってしまおうという事だった。大胆。
で、カナタは自転車で一人旅をしている事にする。学校の問題は、今日が金曜日だから、とりあえず、放課後急に思い立って週末を利用した短い旅ってことにする。そして、財布を入れたカバンごと、自転車を取られてしまったと。前の通りに出たら、たまたま出会って困っているみたいだから、離れに泊めてあげてほしいと千鶴が家族に訴える。
題して、『お父さん、お願い!助けてあげて!作戦。』だって。大丈夫かなぁと不安がっていると、千鶴は気楽な笑顔で言った。
「お父さんは、私に甘いから大丈夫。・・・多分」
多分って・・・。やっぱり不安だ。
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