交錯

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 それから1時間、机の上にあった書類はきれいに片付いている。沙耶は、緊張の糸が切れたのだろうか、椅子にもたれかかり、ふーっと息を吐く。そんな彼女の目の前に、ティーカップが置かれる。ティーカップの中には紅茶がほのかに湯気を出している。誰が置いたのか沙耶が視線を上げるとそこには玲奈の姿があった。 「これ、玲奈様が淹れたんですか?」 「私の趣味なの。1年位前にはまってね。誰かに淹れるのは久しぶりだから自信ないけどね」  沙耶は、玲奈の入れてくれた紅茶を飲む。茶葉から入れたのであろう口をつけるときに感じる香り。飲んでみての甘さ。カップを通じて伝わってくる温かさ。沙耶は実は、紅茶をあまり飲んだことがなかった。それでもはっきりと思った…… 「おいしい……」 「そう?それならよかったわ。疲れたでしょ?少し休憩にしてていいわよ」  玲奈は、自身も一口飲むと、カップをパソコンの横に置き、また作業に戻っていく。沙耶は、それを横目に一口紅茶を飲む。沙耶の体はポカポカと奥からポカポカと温かくなっていく。きっと紅茶のおかげかな。そう思う沙耶。 「……ごめんなさい」  突然、玲奈が発した言葉に沙耶は何の事を言っているのかわからず戸惑う。 「生徒会の手伝い。私が無理言って貴女に来てもらったの」  思えば疑問ではあった。入学して1カ月の自分が選ばれたことに。自分より優秀な生徒はたくさんいるだろうことは沙耶でもわかっていた。 「どうして私を?」 「私のわがままかな?」 「わがまま……ですか?」  そういうと玲奈は作業してた手を止めると席を立ち沙耶の下へと近づいていく。 「玲奈様?」 「私がね……あなたの事をもっと知りたかったからよ?」  玲奈は沙耶の目の前に来ると、沙耶の手を取る。沙耶は椅子から立ち、その場から動こうと思う。しかし体は昨日と同じで自分の意思に反して動こうとしない。自身の手を取る先を見ていくと玲奈と目が合う。その瞳に吸い込まれるかのように目が離せない。 「本当はあなたもわかってたでしょ?私が選んだ事くらい。来たらどうなるかも……」 「それは……」  考えないようにしていた。あれは何か間違い。夢なんだと。そう思い込もうとしていた。そうしないと自分の中の何かが変わってしまう。そんな恐怖があった。沙耶は今、玲奈に自身の心の中を丸裸にされているような。玲奈の瞳の奥はそう訴えているように思えている。 「教えて?あなたの事……」  玲奈との距離がだんだんと近づいてくる。見つめあう二人。耐えきれず沙耶は瞳を閉じてしまう。なお近づく二人……やがて二人の唇が合わさる……その寸前。 「失礼します」  生徒会室のドアを開く音がする。
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