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その瞳が不意に俺に向けられた。
拓美の表情から笑みが消えている。
「潤、お前、具合悪いんじゃないか?」
「え?」
「いろいろあったんだろ。精神的にも疲れた顔してるぞ。リーダーも休んでるし、潤も早めに寝たほうがいいんじゃねぇの」
精神的、か。拓美はよく見ているなと他人事のように思う。
姉の記憶は、しばらく俺を苦しめるだろう。満足に眠れない日々が続くくらいは覚悟が必要だ。
「…いや、俺は大丈夫。それより、拓美は大丈夫か?幸尋にまた、体を乗っ取られてただろ」
「あぁ…あれな。幸尋にそうするよう頼んだの、俺だし」
「え?」
驚く俺から目を逸らし、拓美は足元を見つめる。
「俺じゃ、あの状況をどうすることも出来なかった。けど、幸尋には何か策があるようだったから癪だけど頼んだんだよ。まぁその結果、みんな無事だったんだから良かったけどな」
「……」
俺は少し黙った。
複雑な気持ちだ。物問いたいのを押し殺して、拓美に言う。
「…そっか。まぁその、今回は助かった。ありがとう」
「そのお礼、俺に言う意味あるか?」
「拓美のおかげでもあるだろ。だいたい、幸尋はああいう状況を傍観者になって楽しむ悪趣味な奴だ。けど拓美が頼んだから、聞いてくれたんじゃないか?」
「……」
嫌なのか嬉しいのか微妙な表情を浮かべた拓美は、線香花火を始めた3人の方を見る。
俺と拓美はしばらく無言で、その光景を眺めた。
一難去ってまた一難。
この先に待ち受ける嵐の静けさの中、写真部の夏休みは終わりを告げたーー。
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