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妹探し 下
***〈葉月潤.side〉
*
言葉を失った俺の目の前で、巫女の少女ーー奥村あげはは、不敵に笑う。
その時、夜空が一瞬頼りない光を放った。同時にドンっという音が響く。
「花火、始まったな」
と、少女は言って俺から目をそらした。
続けざまに鳴り響く花火の音に、俺は同じ方角に目を向ける。田舎の花火は1発1発を大事に打つ為あまり派手じゃないが、遠くから眺める花火は綺麗だった。
「ずっと変わらなくて、安心する。この村も花火も。…祭りも」
「……?」
俺の真横にいつのまにか並んだ少女は、何かを懐かしむ声でそう呟いた。ちらりと見たその横顔は、どこか寂しげだった。
「あのさ、弓…、えーと…」
「この格好の時は、あげはでいいぞ」
そう言って俺を横目で見るあげはの目つきは冷たいけれど、相変わらず口元は笑っている。
その視線を警戒しながら、俺はあげはに言った。
「あげは、君は幽霊…なんだよな?」
「ああ」
「その…どうして…?」
「死んだのかって?まぁ、不注意の事故死だよ」
聞きづらかった質問を、あげははさらっと答えた。
「本来なら、成仏するのが一番いいんだけどな。けど、私の場合は生前からこの地に囚われている事もあって、中々それが出来ないんだよ。だから死んでからも、毎年、結界が緩む祭りの夜には、お前達みたいにあの世の境目に迷い込む人間を連れ戻したり、死者がこの世の人間を連れて行かないようにしたり…まぁ、巫女としての役目を果たしてはいるんだよ」
と、あげはは言った。
俺はあげはの顔をしばし見つめる。すると眉根を寄せたあげはに睨まれた。
「何?」
「いや、いい奴だなと思って」
「はぁ?……お前って、単純な奴だな」
と、思いっきり呆れられた。
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