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グラウンドで部活の練習をする、返事だとか、顧問の声やホイッスル、土を踏みしめて走る足音などが混ざって聞こえてくる。
その中で遠くから柔らかな優しい音が流れている。
校舎4階、ほぼ中央の教室の窓際で部活をがんばっている彼女がいる。
こんなに遠いのに、見えるのは視力が両目とも2.0だからか彼女だからか、わからないけれど。校舎を見上げて思わず、眩しくて目を細める。
音楽のことは何もわからないけど、彼女の演奏はとても心地よい。まるで応援されているみたいで、練習も人一倍頑張れる気がするのだ。
「お前調子いいよな!どうした?」
休憩中、部長の圭に絡まれる。本当のことなんて言えるわけがない、タオルで汗を拭く振りで顔を背ける。
「…関係ないだろ。」
「そんな隠さなくていいぞ〜、どうせあの子だろ、優子ちゃんだっけ?いい加減告れよ。」
前言撤回、圭に詰め寄り締め上げる。
「圭、お前…!?」
「ちょ、タンマタンマーっ!つか、お前の顔みりゃわかるっつーの!あの子がいる時に練習中気にしすぎ!」
…え?…俺ってそんなわかりやすいか?
見回すと、周りの部員たちがウンウンと頷いている。…後輩もかよ、なんかショック。
「あの子も生徒会だし、有名だもんなぁ。ま、俺は華蓮から聞いたんだけど☆」
「…華蓮かよ…。」
俺が会長と華蓮に逆らえる訳がない。
もはや天災だと思って諦める癖がついている。
「俺と華蓮みたいに早く付き合えばー?」
「無理に決まってるだろ、そもそも生徒会内恋愛は禁止だ。」
「まー、お堅いことー。」
ものすごく棒読みなんだが。そして哀れな目でこっちを見るな。
ピーッ
休憩終了のホイッスルが鳴る。
それと同時に、圭がこちらを向いた。
「…あんまり機会を待ちすぎて、横からかっさらわれないといいけどな。」
日が沈む前、1日の最後の輝きをバックにした圭の表情は暗くてよく見えなかった。
…だからかはわからないけれど、いつもより真剣なトーンに聞こえて、俺は何も言えなかった。
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