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慌てて制汗剤を使い、汗臭さがないことを確認してからダッシュする。
夕方になっているとは言え、真夏にダッシュである。制汗剤を使った意味がなくなってしまったことを軽く後悔した。
なぜなら目の前に立つ白川さんからは、めちゃくちゃいい匂いがしているのだ。
ふわりと纏う優しい甘さの香りが。
「えと、あの、差し入れです。お疲れさまでした。」
ズイッとビニール袋を差し出され、おずおずと受け取る。
中にはスポーツドリンクや塩分タブレットも入っていた。
「ありがとう。」
お礼を言うと話題がなくなってしまい、場がシンと静まる。
何か話題をと口を開こうとすると、「あのっ!」と白川さんが勢いよく顔を上げて、視線が合う。それと同時に、白川さんの頰が紅く染まる。
俺も見ているだけで、顔に熱が集まるようだった。
「あの、私…中学の時からずっと瀧先輩に憧れてていて…。今さら、かもしれないんですけど、その…。」
白川さんの瞳が段々と潤んでいく。
顔は林檎のように真っ赤だ。
ゴクリ、と喉が鳴った。
「…すき、です。」
消え入るような細い声だったけど、ちゃんと聞き取れた。そして、脳で意味を理解した瞬間、動揺し、思考が停止したように体が動かなくなる。
(何か、何か言わないと…。)
嬉しさと混乱がごちゃ混ぜになっている状態で焦っている俺は、白川さんの表情がだんだんと曇っていくのに気がつかなかった。
「…こんなこと言って迷惑、でしたよね。-ごめんなさい。」
ペコリと一礼した瞬間に地面が点々と変色した。
それが涙だとわかった時、白川さんは背を向けて逃げ出そうとしていた。
慌てて追いかけて、右手を掴む。
「待って!」
振り向いた白川さんはポロポロと涙を零していて、なにやってんだ、と自分自身を殴りたくなる衝動に駆られる。
年下の女の子が一生懸命伝えてくれたのに、俺が勇気出さないでどうするんだ。
本当にヘタレな男でごめん。
ただ、俺からも伝えさせてほしい。
「-俺も、好きだ。」
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