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一方、客室棟の一角では半刻ほど後に リーディが目覚めた。 ―そうか俺・・・相当疲弊していたもの な…。 帷子を外さぬまま、寝てしまっていた。おかげで大分気力等は回復したようだ。 そして腕の中にはステラが穏やかな寝顔で寝息を立てていた。 彼女も胸当てを装備したまま眠っている。 外してあげてもいいけれど・・・ 起こしてしまうかもしれないし、自分の理性等も考えてそのまま寝かせておくことにして。 彼はステラの寝顔を見て額にそっとキスを落とすと、まず自分の身体の汚れを落とそうと装備を外して浴室に向かった。 その数十分後にステラは目を覚ます。 浴室の方からの水音で気が付いたのだ。 ―そうだ私…。 眠る前の記憶が蘇り、切ない気持ちになった。 好きだからもっと触れられたい。 けれど、この先に進むのは・・・溺れそうで怖い。 すると、浴室から上半身裸のリーディが出てきた。消えない身体の傷…。右頬にある向疵(むこうきず)と同じ昔の襲撃での傷だと思う。 「起きたか」 「うん…。」 ―こんなにまじまじと体を見たことないけど ずいぶん着やせするんだ。  結構肩とか胸板がしっかりしていて、 さっきまでこの胸に抱きしめられていたかと思うと再び赤面する。 「疲れていたのね。」 「ああ、結構過酷な洞窟だったしな。 半刻ほどだけど眠れて、だいぶ疲れが取れたわ」 身体を拭きながらステラの横に腰を下ろす。 彼女は目を合わせられなくてすぐに俯いた。 その様子を察してか、リーディが口を開いた。 「…さっき…衝動的過ぎたのは謝るけど、俺、ほかは謝る義理なんてないから。 好きだから・・・したかったし。」  「…わかってるわ。」 「お前だって…嫌ではなかったんだろ?」 そう言われて、ちらと顔を観たら彼も少し照れてこちらを見ようとしない。 ―そっか… 私だけ初めてでって思っていたけど まるでリーディの顔も照れた子供のよう。 ステラは何となくほっとしたのだ。 とその時、ドアを強くノックする音がした。 「王子・・・リーディ、いるか?」 ―この声はゾリアさん?なんだか様子が変だ。 リーディもそう思ったらしくそのままの格好で扉を開ける。 「どうしたんだ?」 ステラも気になって後ろについてゆく。ゾリアの顔はかなり神妙で深刻なことが起きたことは一目瞭然であった。しかしゾリアはそんな時でもステラの姿もちらと見た瞬間、 「休んでいるときに申し訳ない・・そして悪い…邪魔して。」 とちょっとだけほくそ笑んで彼女にウインクしたのだ。 ―なんか誤解されてる…。 たぶんリーディが上半身なにも着てないからだ・・・。 ってそれどころじゃなさそうだ。 ステラはぶんぶん頭を振ったが、ゾリアはそれはお構いなしに再び険しい顔をして言い続けた。 「結界が破られて、ゴードン老師殿や大臣がいない。急きょ王の間へ装備を整えて来てほしい。」 それを聞いたリーディの顔が真っ青になり、彼はすぐさま頷く。そして 「5分で出立する」と言うや否や、身支度を始めた。 「ステラも…」 「ええ。わかったわ。」 ステラは槍を降ろしていただけだから、再びそれを背に装備する。 乱れていた髪も素早く結い直して。 二人は準備を整え終えると、お互い険しい顔で見つめ合い、頷いた。 覚悟を決めた瞳と瞳が交錯する。 先ほどの甘く穏やかな雰囲気とは真逆の、戦士の顔の二人がそこに、居た。
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