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 レオノラは城内を駆け抜けた。 -憎い・・・。 半分は魔族なのに王子を誑かしたあの女が。 そして、その女に心を奪われて翻弄されている王子。 彼女は魔導師控室の扉を勢い良く開けて、中に入り閉める。 バタンッ! 力強く閉めて、ノブを後ろに回した手でしっかり持ち彼女は項垂れた。 わかっていた。 初めて私を抱いた夜もお互いの悲しみを少しでも癒すためで、決して私のことを愛しているからではなかったことを。 でも、 -憎い…。 -いっそほかの女だったら、まだ諦めがついたけどどうしてなのよ・・・! …憎いのか? レオノラの心の中に聞いたことのない声が響く。 -ええ。憎いわ。すべてをめちゃくちゃにしたいほど。レオノラは一瞬怪訝に思ったが、その問いかけにすぐさま返事をした。 -ならば、望みを叶えよう。 我が好むのは殺戮と怨恨…。 「…え?」 レオノラが、うつぶせていた顔を上げると 銀色の髪の魔性が立っていた…。 「…!」 憎い憎い本来の敵が彼女の前に立ちはだかる。その瞬間、彼女は深い紫色の瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えて気を失った。    暫く経って、何度か扉をノックする音が。 レオノラは目を覚まして我に返った。 「私は…?」 ズキズキ痛む頭を手で押さえて 扉を開けると、ゾリアが立っていた。 「レオノラ…。」 「ゾリア…。」 レオノラはここまでの自分の記憶しかなく あとは別の人物がまるで自分に乗り移ったかのような感覚に捕われていた。 「大丈夫か?」  ゾリアは心配気に問う。  「ええ…取り乱してごめんなさい。」 「休むか?」 ゾリアは何がどうと説明できるわけではないけれども、レオノラの様子がおかしいことに気が付いていた。 ―何だろうか、この違和感は。 そう思いつつもレオノラの顔色が悪かったので(取り乱した後だったし)控室のベッドで休むように、後のことは王女やセシリオに告げると言って彼は部屋を出て行った。 何故か消えない胸騒ぎを抱えたままで…。 ☆☆☆   西の塔には王女とコウが残された。 「あなたたちが急に帰ってきて、まさかこんなことになっているなんてね。」 「ええ…。」 コウは静かに微笑んだ。  「二人が想い合っていたのは薄々気が付いていましたが…どこか遠慮気味のところはありました。」 「そうなの…。」  フィレーンは、まさか、とは思ったけれども リーディがそこまでステラに本気だとまでとは思っていなかった。 「とりあえず…まずあなたたちも疲労困憊だし客室に行って休んでいなさい…ほらメイがステラを連れて戻ってきたわ。」 見ると二人がゆっくりと戻ってきた。 「お待たせ、フィレーン王女、コウ」 メイはにっこりと。ステラはまだちょっと居た堪れない感じでフィレーンの前に現れた。 「メイもコウも疲れているでしょう?客室で休んでなさい。」 「あ、すみません。洞窟から戻ってきたばかりで…」 フィレーンはううん、と微笑み、ステラに向き直って言った。 「ステラは…少し話があるわ」 王の間のテラスでお茶を勧められて、ステラはまず城に来た経緯を話す。ヴィーニーの指示で魔導書を取りに来たことまでわかって、話がつながったことを確認してフィレーンは口を開いた。 「それでレオノラは…。」 「…」 ため息をフィレーンはつくと再び話し出した。 「リーディとレオノラががそういう関係だったなんて…。確かに仲がいいとは思っていたけれど…。でもリーディに好きな人がいるっていうのは、3年前此処を旅立つ前に、一度北の大陸へ彼が一人で旅にでて帰還した時に彼が変わったから…その時から気が付いてた。誰かまではわからなかったけどね。」 ステラは静かに頷いた。 「きっとそれはあなただったのね。ステラ。実は3年前に私やじぃと一緒にゲラン郊外に定住しあなたたちを探していた時、彼ちょくちょく出かけていた町があって、スザナという町なの。」 -スザナ? そうそこは、ステラが14歳まで母と暮らしていた町だった。 「リーはそこで、いつも誰かを探していたようだったの。定めの仲間っていうか、恋い焦がれていた人を探していた感じがしたのは気が付いてたわ。で、王女の私からの意見だけど、お互いが好きなら一緒になってもらいたいわ。でも周りはいろいろあるでしょうけど それに負けないという自信があるなら、私は大丈夫だと思うの。」 「フィレーンさん…?」 「あなたを初めて仮屋で紹介されたときに、まず気が付いたのはリーディが久しぶりに作り顔で無い笑顔を見せたのよ。」 フィレーンは王族という枠を超えて弟の幸せを願っていたのだ。 「大切なのは、これからどうするかだから。 」 そう言って紅茶の入ったカップを静かにおいて、微笑んだ。 先ほどの神妙なセシリオの顔が浮かぶ。 「私は…ステラ殿が半分敵の血を引いているからという理由より、あんな風に肉親を亡くされた王子がせっかく得た伴侶をすぐに亡くしてしまう、そんな深い悲しみに再び耐えられるのかが心配なのです。」 リーディは自室に戻るときに、セシリオの言った言葉を心の中で反芻した。 ―そんなの信じない…。 彼は拳を握りしめた。 信じないというより信じたくなかったのだ。 ―でも俺はあの時思ったんだ。死にかけた時に人生で後悔はしたくないとどうであろうと、俺の決意は変わらない。 確かに俺はいつか巡り合えると、3年前からステラを探していた。しかし皮肉なことに、探していたステラは、仲間の一人であり、勇者の末裔であり、俺の敵の血を引くものでもあった。  ゲランの街で再会した時、ショックの方が大きかったのだ・・・・。  だから最初は、好きになってはいけないと諦めかけていた。しかし、気持ちは抑えられなくて、せめてすべてが済んでからきちんと言おうと思っていた。  だが、今となっちゃそんなのどうでもいい。信じるつもりはないが、もしステラが短命ならなおさら時間が無い。 …今すぐ…抱きしめたい。  客室の並ぶ廊下を歩いてゆくと、 そこに愛しい彼女が、向こうから歩いてくるのが見えた。  瞬間、リーディは堪らずに、彼女に駆け寄ったのだ…。
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