4.如月【貫井】

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 ……触れたい。本当は、いつだって彼に会うたびに、彼を近くに感じるたびに触れたくて抱きしめたくてたまらなかった。  あの夏の終わり、たった一度だけ腕のなかに閉じ込めた華奢な身体を、重ねた熱い唇を、もし赦されるのならば、教師と生徒という枷など取り払って永遠に自分だけのものにしてしまいたかった。  彼のことを傷つけたくない、大事にしたいと思う一方で、時折、そのおのれの内側から突き上げてくる御しがたい衝動は、しばしば貫井を苦悩の極みに陥れた。  けれど、千景はまだたったの十八歳だ。きわめて大人に近い年齢ながら、まだまだ真の大人である自分が庇護しなければならない立場の未成年なのだ。そんな彼を、自らの欲望に流されるがまま抱いていいはずがない。  ──だから、もしかしたらこれは罰なのかも知れない。  教師でありながら生徒である彼を愛した貫井への、そしてみにくい欲にまみれた大人であるおのれ自身への。  それでも──千景、今、ただひたすらおまえに会いたい。 「──お呼びですか、校長」
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