4.如月【貫井】

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4.如月【貫井】

「──先生。私、第一志望に合格しました!」  職員室を訪ねてきて開口一番、担任クラスの女子生徒が嬉しさを抑えきれない様子でそう報告してくるのに、貫井の口からも自然と、やったな、という祝福の言葉が飛び出した。  二月に入ると、私立を皮切りに受験シーズンもいよいよ本格化し、それと前後するように貫井の耳にもちらほらとその結果を告げる知らせが届くようになってきた。それらのなかには、こうして生徒から直の声を聞けることもあれば、貫井の方で大学側が運営するHPを見て可否を確認する場合もある。ともあれ、今のところ、貫井が担任するクラスの生徒たちは概ね、それぞれの希望に沿う成果をあげているようだった。 「はい、先生のおかげです。あのとき、最後まで諦めるなって言ってくれたから、私、頑張れました」 「いや、俺は別に何もしていない。おまえの努力が今回の成果につながった。それだけだ」 「いえ、それでもやっぱり先生の言葉は大きかったです。──本当にありがとうございました」  それだけ言うと、深々と一礼して職員室を出ていく生徒の背中を見送ってから、貫井はそっと安堵のため息を吐く。こうやって、自分の教え子たちが次々と新しい世界へ飛び立っていくときをともに分かち合える瞬間は、教師としてほかの何ものにも代えがたい無上の喜びだった。  ──昨日、正式にS大から合格通知が届いた。……おめでとう。
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