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「あの時、お嬢様よく頑張っていましたね」
牧がしんみりとした口調で言う。
ひよりはそんな牧に苦笑した。
「だって、私一度は自由になってみたかったんだもの。
ずっとずっと、木之瀬が重くのしかかってきていたのよ?
やっと、私自由になれる」
「ですが、お嬢様。
自由に責任はつきものですよ」
「……分かってるけど」
「お嬢様。
お立場だけは忘れることのないよう、よろしくお願いいたしますね」
「……何がいいたいの、牧」
にっこり笑っているも、クギを刺しているようにしか聞こえない言葉にひよりは顔をしかめた。
それでも牧は動じない。
「お嬢様。
お嬢様は、来年にご結婚を控えた身でございます」
「うん……」
「この一年。
どんなに男性の方を好きになっていただいても、恋をして頂いても構いません。
だってお嬢様の自由なのですから」
「……う、ん」
「それでもお嬢様。
あまり身を焦がすことのないように。
その恋がまやかしだということを、お耳にとどめおいてくださいね」
「……もう、牧。
でも、私そんな一年で恋なんてしないわ。
だってもう絶対かなわないし」
「そうです、かなわないのですよ、お嬢様」
「うん」
分かってる。
言葉を続けながらも、本当の自由ではないことをひよりは痛感していた。
いや、牧の意図がそこにあることも気づいていた。
まやかしの自由なのだ。
ひよりが満足するための『自由』ごっこ。
つまり、この時間はお遊びなのだ。
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