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「では、お嬢様。
ゴミを捨てる際には必ずカードキーを持っていって下さいね。
お部屋に入れなくなりますから。
それからあまり夜遅くはでかけないこと。
洗濯物も、下から見えることはないと思いますが、お外に干すのは……」
「わかった、わかったよ。
大丈夫だから」
マンションの入り口のすぐそばに止めておいた車の横に立つと、最後だからか牧は饒舌にお説教を始めた。
牧のお節介染みた過保護癖にひよりは苦笑いをしつつ、牧を車の中に押し込む。
牧は少し不満気な顔をしながらも、しぶしぶと言った様子で車のドアを占めた。
そして、窓だけ開けると、そこから顔を出して不安そうにまたひよりを見る。
「お嬢様、本当に…」
「わかった!わかったから!
もう、帰って!」
あまりに長々と続きそうなので、そのまま車から数歩距離を開けると、さすがの牧も苦笑して、
「では、また三日後に参ります」
とだけ声をかけると、窓を閉めて発進した。
そのまま、黒い車が見えなくなるまでひよりは見送る。
やっと、始まるんだ。
『自由』の生活。
初めて、ひとりぼっちの夜になる。
不安もあるけれど、それよりも解放感が大きくて、ひよりは鼻歌交じりに踵を返し、家に戻ろうとした。
しかし、その瞬間だった。
「おー、おー、すっげぇ車だったな」
突然後ろから声をかけられたのは。
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