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期待した先がなにも見えなくて怖くなる。
連絡がないから気になっているだけだ。だって昨日の夜はまた明日って言っていた。朝だってなにか予定があるとも言っていなかった。
だから来るものだと思ってしまうのは、仕方がないじゃないか。
「違う、これはそんなんじゃない」
「ふぅん、それはこっちとしては嬉しいことだけど。勝利ちょっと天の邪鬼だからな。本当のことと反対のことよく言うよね」
「これはほんとに違、う」
反対のことってなんだよ。違うって言ってるだろう。だけどなんで連絡くれないんだよって文句が言いたくなる。いま放っておくなよって、言ってやりたい。
ほんの数日だけれど楽しかったんだ、あの人のことを色々知るのが。ちょっと期待があったんだ。この人ならきっと大丈夫だって。
「……光喜、俺やっぱり無理だ」
「勝利?」
「デートとかしても、意味ない。俺には無理だ」
期待なんてするもんじゃない。もしもいま熱が冷めてしまったら、俺はまた放り出されてしまう。そんなことになるくらいなら近づきたくない。
光喜だっていつ我に返るかわからないじゃないか。元々女の子が好きなんだから。
「勝利! 自己完結しない! ぐるぐる悩んで悪いほうに考えまとめちゃうの、勝利の悪い癖だよ」
「だって、俺……その先が怖いんだよ」
「ああ、もう! ちょっと待ってな。いますぐそっち行くから」
「光喜?」
「あの人となにがあったかわかんないけど、俺が行ってちゃんと抱きしめてあげるから」
ふいに電話の向こうで、慌ただしくドアが閉まる音が聞こえて、息を切らして走っているのが伝わってくる。
光喜の住んでるマンションは確か隣駅。だけど俺のアパートまで、どんなに早くたって三十分はかかるはずだ。
思わず携帯電話を握りしめて、鼻をぐずつかせてしまった。光喜は昔からいつでも真っ先に飛んできてくれる。
ただの友達の時から、俺がしょげてる時は一番に気がついてくれて、必ず慰めてくれた。
「勝利は、もっと人を信じるべき」
「お前のことは信じてもいい」
「それ、会った時にも言ってよね」
アパートの外灯が見えてきたけれど、俺は立ち止まってその場にしゃがみ込んでしまった。
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