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俺はそんな出会いは求めていない!
この世の中には、ルーチンで生きているやつが意外と多くいる。毎日同じ道を通り、同じ店で同じものを買い、そしていつもと変わらぬ時間に家路につく。
それが身に染みついて、繰り返しの日々に気づいていない人も、いるのではないかと思う。例えばいま目の前にいるこの人とか。
「872円です」
週に三回。ペットボトルの紅茶、惣菜パンを二つに煙草一箱。毎回同じものを同じだけ買っていく。
週に三回も同じものを食べて、飽きやしないのかと思うのだが、まあそこは俺の知ったところではない。
「最近寒いですよね。風邪ですか?」
「えっ?」
会計を済ませたものを袋に詰めながら、思わず口から出た言葉にしまった、と手を止めてしまう。案の定、目の前でマスクをしたその男は、上擦ったような声を上げた。
その反応にどう切り返すべきか悩んだが、俺はなにごともなかったように、袋に詰めたものを男に差し出した。
「ありがとうございました」
しかし袋の持ち手をそちら側へ向けるものの、目の前の男は俺の顔をじっと見ながら動かない。不思議に思い見つめていると、少しマスクをずらして、俺に向けて声をかけてきた。
「……あ、あの」
「はい?」
意図せず見つめ合う形になるが、なにが悲しくて自分より一回りは年上に見える男と、いつまでも顔を突き合わせていなくてはならないのだ。
男しか駄目なゲイの俺でもありえない。なるべく不自然さが出ないように、営業スマイルを貼り付ける。
「なにかご用ですか?」
「あの、笠原さん。今度食事に付き合ってください。いまお相手いませんよね?」
「は?」
「三軒隣の部屋に住んでる、鶴橋と言います。付き合ってください」
男の言葉に思わず目を見開く。三軒隣の住人は、俺が朝帰りするたびにじろじろ見てくる、黒縁眼鏡のダサ男。
だが目の前にいるのは、目鼻立ちのはっきりした割と整った顔。大して好みではなかったし、明らかにノンケだったのでスルーしていた。
「えーと、あの、なに言ってるのか、よくわからないです。人違いじゃ」
「明日、お返事いただきに来ます」
やばい、これは変なのに引っかかった。やたら真剣な目に、ひきつった笑いしか浮かんでこない。
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