どうしても会いたくないって思うのは当然だ!

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どうしても会いたくないって思うのは当然だ!

 生きていると、予想外の出来事に出くわすことは多々あるものだ。しかしこう斜め上から鋭角に攻められると、途端に逃げ場を失うので本当にやめていただきたいと思う。  大仰なため息が出るバイト帰り、アパートへの道のりをとぼとぼと歩く。  気持ちも足取りも重たく、別に帰りたくない、と思えるほどの相手がいるわけでもないのに、いまは帰りたくない!  なんて終電間際の女の子のような台詞が浮かんでくる。  いや、確かにそんな相手がいたらいいなとは思う。むしろ絶賛彼氏募集中だ。――うん、確かに募集中ではあるのだが、俺は面倒くさいのでノーマルな相手には、手を出さないことにしている。  それなのに、俺の目の前に現れてまっすぐに告白してきた相手は、間違ってもこちら側に足を踏み出さないだろう見た目のノンケ男。  あの男は一体どこで、足を踏み間違えたのか。 「あ、電気灯ってる。いるんだな」  うだうだしているあいだにも、アパートにたどり着いてしまい、こっそりと二階の左端を見上げてしまう。玄関扉の横には窓があって、キッチンの電気が灯っているとすぐにわかる。  なぜその部屋を気にするかって?  そりゃあ、そこがあの男の部屋だからだ。うっかりまた顔を合わせたら、告白の返事を急かされそうな気がする。  しかし俺の部屋は三軒隣の右端。階段が左側に付いているので、そこに向かうにはあの部屋の前を通らなくてはならない。  キッチンに立ってたらどうしよう、そう思うと帰りたいのに帰りたくない。もう部屋は目の前だというのに足が進まない。 「ああ! もう! こんな寒空の下で、なんであんな男のために悩まなきゃいけないんだよ!」  あの扉の前を通るなんてほんの数秒だ。そう思い直すと、俺は足早に階段を駆け上がり、電気の灯る部屋の前を通り過ぎ――ようとしたが、なんの前触れもなくその扉が開いた。 「笠原さん、おかえりなさい」 「……っ!」 「いま笠原さんの足音が聞こえたので」  目の前で扉を開いて立っているのは、コンビニで出会った優男。スーツを着ていた時は後ろに撫でつけられていたが、いまは前髪が下りている。  そして整った顔には、不釣り合いな野暮ったい黒縁の眼鏡をかけていた。朝になるとこれに無精ひげが加わって、残念なダサ男に変わる。 「あ、告白の返事は明日聞きに行くので、今日はゆっくり考えていてくださいね」  やんわりと笑ったその男に顔をひきつらせて、俺は逃げるように自分の部屋に駆け込んだ。
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