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ねぇ、どれだけ執着してんの? ストーカー?
どういう聴力を持っていたら、他人の足音を聞き分けられるんだ? それともなにか、俺の歩き方はそんなに特徴的なのか? なんでもない顔をして笑っていたあの男が――
「怖い、超こえぇよ!」
どうしていままで、気づかなかったのだろう。あの様子ではずっと、俺のことを認識して見ていたってことだ。
いや、確かに毎回よく会うな、とはちらっと思ったりはしていた。だけどまさかここまで、ねちっこい感情を持たれているとは、夢にも思わない。あれはストーカーに近いだろう。
いま相手がいないということを知っているのだから、かなり事細かに観察されている。俺が付き合っていたやつと別れたのは、二週間前くらいの話だ。
付き合っていた時も、そこまで頻繁に家に連れ込んでいたわけじゃない。たった二週間の空白でいないって認識するって、どれだけだよ。
「やばい、いますごく引っ越ししたくなってきた。貯金いくらあったっけ」
大学に入ってから住み始めて、もうすぐで二年。築年数が古い割に壁が薄くなくて、いい物件なんだけど。いまはどこでもいいから逃げ去りたい。
他人に好意を持たれることは嫌じゃないが、でもあれはないなぁ。ノンケだし、顔はそんなに好みじゃないし。
第一に俺より顔面偏差値が何倍もある男は、連れて歩きたくない。自分の地味さが目立つ気がして、絶対に劣等感に苛まれる。
そうだよ、そもそも俺みたいな地味で平凡な、どこにでもいそうな男にノンケが惚れる理由ってなに?
「朝帰りを除けば、コンビニで会うくらいしか、まともな接点ないよな」
買い物しに来ても、めったに声なんてかけないし、今日もたまたま声をかけてしまったくらいで。俺はノンケの次に男前に関わりたくない。
友達になっても、あんまりいい思い出がないからな。まあ、今回は友達ではなく恋人に立候補されたわけだが。
「返事聞きに来るって、わざわざ店に来なくてもさっきでもよかった気がしてきた。すっぱり断ってやれば関わってこない、よな? ちょっと変な興味が湧いちゃったとか、その程度、だよなぁ?」
オンの時はあんなに整ってるんだから、普通にモテそうなのにな。オフの時がダサすぎるから駄目なのか。
確かに、あれ見たらちょっと百年の恋も冷める。でもそう言う駄目なところが可愛い、とかいう女だっているだろう。
だからなんで俺なんだ! 他にもっとあるだろう選択肢が!
そもそも俺はあれを抱く気にはなれない。そうだよ、断る理由は一つ、性の不一致だ。
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