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「ん?なんだあれ」
些細なことではあった。
このあたりは通った回数が少ないのでいろんなものをつい注意して見ていただけなのもあるけれど。
そこは変わらず右方に林の続くアスファルトなのだが何故かその一帯だけ泥の跡が全くなく森林方面を見ると雑草の類が著しく少ないのだ。なんだこれ。
それがどうしたと言われればそれまでではあるが多少の驚きを覚えるくらいにはその差ははっきりと地面に付いていた。あたしはそれこそ雑草に群がる昆虫よろしく緑のない土だけの場所をまじまじと眺めていた。ただ偶然誰も通った事がないだけだろうか。それとも何か理由があって?ううんわからん。テレビで見る敏腕刑事(デカ)じゃあるまいしパッと見ただけで真相を当てる能力なんてありはしない。
ただなんとなく気になってしまった。普段ならこんな小さなことなんて風が吹いたくらいのものなのに。
森の方を向いてみると、なんというか、森なのだからそこには木が立ち並んでいるのは当然といえば当然なのだが、ただちょっと木々の合間の茂みに隙間というか人が一人通るために空いているようなスペースが開いているのが見えた。
本当に大したことじゃない。本当に。だが何故か無性にその先のことがきになってしょうがなかった。ほんと今日のあたしはどうかなっていたようだ。もう親も起きて朝ご飯の準備をしている頃だ。早く戻らなければ
その時、茂みの奥で何か動いた気がした。人影?いやそんなはずはない。こんな場所に誰か居るというのか。
ううん…
ちょっと
ちょっとだけ
あたしは、まるで道が広がるように雑草の少ない茂みの先におそるおそる体を滑らせていた。なんでこんなにこの場所が気になるのか、もう考えることもしないで、ただひたすら好奇心で深緑広がる闇の中を気がつけば進んでいた。
暗く深い闇。光といえば高い木々の葉の間から細く覗くのぼりたての朝日だけ。
「あれは…」
あれは、なんだろう。闇の中で一つだけ微かに光るものが見える。あれは、人影?さっき入り口で一瞬見たあの影だろうか?それなりに高台の斜面を登ってきたせいかはるか東方から届く陽光が木の幹の間を縫ってあたしの視界を僅かに照らし出している。その先でぼんやりと輝きを放つ人型の影が見えた。女の子のようだった。
薄く
白く
鈍く
そして眩いくらいに今お互いを覆う闇の中でその影だけがはっきりと見える。
自分と同じくらいの、多分女の子。どうしてこんなところにとかなんで光ってるのかとかよりも何故かあたしのなかにあったのは"見覚えがある"だった。
あたしは知ってる、あの子を。どこかで、それもそんなに遠い昔じゃない。でも誰かはわからない。全身が白で統一されたコーデで、発される光のせいで髪型はわからないが身長はあたしと同じくらいか潤よりは低いくらいだ。
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