読書家

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読書家

「おや、読書家さんだ。いらっしゃい。今日はどんな本をご所望かな?」 馴染みの図書館に足を踏み入れると私を見つけた司書さんがそう声をかけてきた。 司書さんに勧められる本を手に読書スペースの椅子に腰を下ろした。 「今日もたくさん読んだね。君は本当に本が好きなんだなぁ」 夢中になって本を読んでいるとそう言われた。 辺りはすっかり暗くなっている。もうそろそろ閉館の時間なんだろう。 名残惜しか思いつつ本を閉じた。 「物語って素敵だわ。まるで自分が別の人間になったみたい。本の中ではなんでもできるのよ。魔法も使えるし世界中を旅できるし仲間だってたくさんいるんだから!」 司書さんは私の話を笑顔で聞いてくれた。 「そうだね。でもそろそろ閉館の時間だから帰らなくちゃね」 急に体が重たくなった。帰らなくてはいけないのはわかってる。でも現実を思うと気が重い。 「さぁ、お見送りをしよう。そんな顔をしないで。またおいで。いつだって待ってるから」 優しい司書さんの声に押されて進む。にっこりと明るい笑顔に見送られて帰路へとついた。 「またおいで、白雪姫」 私はまた本を読むでしょう。別の世界を覗きにいくでしょう。 物語の主人公が他の物語に焦がれる話って面白そう。なので見たい。書きたい。気が向けば。
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