人狼

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人狼

人の姿をしている狼は人間を食べる怪物だ。 人の世に紛れて今か今かと涎を垂らしながら爪を研いでいる。 と言われているが実際そんなに大した生き物じゃない。 人間の姿をして人間社会に混ざっているんだからそれはもうもう立派に人間だと思う。 「う、うぐっ、ぐすっ」 少なくとも私の知り合いの人狼(21歳:大学生)はそうだ。 コンビニのお高いスイーツに惹かれやすく感動系の映画を見て泣いている彼は人間にしか見えない。 「何泣いてんの」 「陽子が、病気だったんだよぉ〜」 チープな物語にここまで感情移入して泣いている男が人間を食う怪物だとは夢にも思わないだろう。 「私先に寝るから」 「やだ!陽子死んじゃうのに!」 「私は死なないから寝る」 追いすがる彼を置いて寝た。 目が覚めたのは深夜だった。 お腹に違和感を感じて起きた。 気持ち悪さに耐えながらトイレまで行って吐いた。すっぱいような苦いような臭い吐瀉物を出す。 何か悪いもの食べたっけ。 そう言えば、お昼の弁当にいくらが乗ってるのそのままチンして食べたな。 それか。それだ。 「大丈夫?」 しばらくトイレでぐったりしていると彼が心配そうにやってきた。 「どうしたの?吐いてたよね?悪いもの食べた?」 「昼、いくら、チンした、愚か」 「なんでそんなカタコトなの」 彼が私の隣でしゃがむと背中をさすってくれる。 もう出すものは出し終えたが気持ちの悪さは拭えない。病院に行ったほうがいいかもしれない。自分の馬鹿さ加減に恥ずかしくなってくる。でも、こういうのって結局大人しくしてるしかないんだっけ。うつるものじゃなかったと思うけどどうだったかな。 急に彼が私の髪を引っ張った。下を向いていた顔が強制的に上げられる。 「なっ、に」 突然のことに状況が飲み込めないでいると彼の指が口に突っ込まれた。喉の奥まで入ってくる異物に涙が出る。 吐き気も相まってせり上がってきた胃の中身がぼたぼたと口から出てくる。 彼はゲロがついた指を私の口から引き抜くとべろりと舐めた。 「味見」 そう言えばこいつは怪物だった。 人間食べる系の怪物ってげろとかうんことか食べるの?って話。汚い。
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