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吸血鬼
「人間、これから伝えることにはイエスかノーで答えろ」
あの日はきっと催眠術にかけられていたんだろう。
暗闇から現れたのは最近噂で聞くようになった吸血鬼だった。私に騒げば殺すと言い、そっと近づいてきた。
体が石になったみたいに動かず、恐怖に苛まれながら彼が近付いてくるのに怯えた。
「絵を描いて欲しいんだ」
噛みつかれる。そう身構えた私に彼はそう言った。
確かに私は画家だったが、まさか吸血鬼にそんなことを頼まれるとは思わなかった。
吸血鬼が鏡に映らないこと、写真に写らないことを聞いた。
彼はどうやら自分の娘の成長を私に描いて欲しいとのことだった。
彼に招かれた屋敷へついていくとまだ幼い少女がいた。
こうして私は吸血鬼の絵を描くこととなったのだ。
「今年で何年目になるのかしら」
椅子に座っている彼女がそう言った。
ふふ、と笑ったかと思えば目を伏せる。
「失礼。何枚目と言ったほうがあなたには伝わるわね」
あの幼い少女はすっかりと美女へと変わっている。一年に一度彼女の絵を描きに屋敷へときた私は半ば友人のような関係性になっていた。
「さぁ」
何度か瞬きをする。
「五十枚くらいだったかな」
絵の具を筆に乗せる私を笑う彼女が霞んでいた。
最近じゃ目も悪くなってろくな絵がかけないと私も笑った。
吸血鬼と人間のコンビはいいよね。年取ってからがまたいいよね。
あと仲良くなっても結局捕食者と飯の関係性が好き。牛と人間。
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