百人目の男

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「まあ、それはさて置き伍島さん。あなたみたいなわかりやすい方は、嫌いですけど割とマシな方ですよ。見た目で中身が伺えますからね」 「ああ?」 「私が一番嫌いなタイプはあなたではありませんでした。スーツきっちり着込んだ、いかにも成功してます風のエリートリーマンタイプです。残念でしたね、色々考えたんでしょうに」  見せるつもりもないけど微笑む。振り返った伍島と目が合った。私を苦しめるためにあえてそう装っていたであろう伍島の顔から、表情がざあっと抜け落ちた。 「わかるんですよ。あなたは顔立ちは遊び人風だけれど、いいひとだ。私はもう、男に希望を持てない脳みそになってしまったけど、あなたは女にそう思わないでください」  伍島がなぜ私にこのような態度をとり続けたのか、正確なところはわからないが、多分被害者の誰かと親しかったのだろう。ふつう、知己が関わっていたら事件担当から外されるものと思うけれど、私にわからないルートが警察内部には沢山あるのかもしれない。そうでなければ、根っからの熱血漢。  まあ、なんでもいい。伍島がいいひとでも、屑野郎でも、男であるだけで等しく私の敵なのだから。  いいひとは、可哀想だ。殺しやすいから。 「担当が伍島さんでよかったです。床を抜くボタンを押すのも伍島さんだったら、いいのになあ」  伍島はぐるりと顔を背け、もう私のほうを見なかった。両手首に嵌められた手錠、その鎖の先を握る伍島の手の震えが伝わってくる。  正面に向き直る直前の伍島の顔を私は見逃さなかった。恐怖が侵食している目。完璧だ。彼は永遠の呪いにかかった。  バイブで尻を貫かれるところをビデオに撮られて涙と汗でぐちゃぐちゃになった汚い顔、局部を切り取られた痛みに喘ぎながら死んでいった今までの男たちのどんな顔よりも、先ほどの伍島の目が、その直前の空虚な表情が私を満たした。  心残りなのは、伍島がこの後生きていかなければならないことである。それだけが本当に歯がゆい。  自画自賛だが、私は優しいと思う。いつか、私を襲って放置して逃げた男よりも、短いスカートなんか履くからだと言った父よりも。生きたまま何度も死ぬことがどういう心地か、知っているから、肉体を切って体温を奪ったのだ。局部にしたのは個人的な恨みだけれど。  だから、生きていかなければならない彼の心を、二回は殺さないであげる。  ーー伍島さん、私今とても気分がいいです。伍島さんでちょうど百人目でした、私が殺した男。  喉まで出かけた言葉を飲み込んで腹の底にしまう。一見震えているようには見えない伍島の背中を、慈悲と軽蔑を込めて見つめながら、廊下をカツカツ進んでいく。繋がれた手錠の振動はやまないまま、我々は刑場への入口をくぐった。
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