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男はタバコを咥えて火を点けると、私に煙を吹きかけた。タバコを吸う人間でもそんなことをされれば不快だろうけれど、タバコを吸わない私にとっては更に不快だ。だけど、私には抗うことなどできない。
「なあ、三橋優奈さん。あんた、若いんだし、いい話があるんだけど、どうする?」
「いい話って、何でしょうか?」
「男の相手をするんだよ。とはいっても風俗なんかじゃない。相手にするのは一人だけだ。その一人の男としばらく一緒に暮らして抱かれてれば、借金はチャラだ。不特定多数の男とやらなきゃならない風俗に比べればずっとマシだし、期間だって短くて済む」
「私、そんなこと……」
「なにカマトトぶってんだよ。処女ってわけでもねえだろうし、ここまで来たら仕方ねえだろ? それとも、何か金のアテでもあるのか?」
「それは……」
私は口籠ることしかできない。私には金のアテなんてどこにもない。少ない給料から少しずつ返しても、男の言うとおり、利息にも満たないから、借金は増えていくばかりだ。
私が決断できずにいると、男は苛立った様子で急かす。
「あんた、幸いにも見た目は悪くないし、スタイルも悪くない。きっと、あの人も気に入ってくれるはずだ。さっさと決めちまいな」
さっさと決めろと言われたところで、そんなに簡単に決めることができるような話でもない。だけど、私が時間を掛ければ掛けるほど、男の眉間の皺が深くなってゆく。もう、いつ暴れだしてもおかしくはない。
「わかり……ました……」
私は仕方なく頷いた。
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