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「ねえハル、『馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで 人戀はば人あやむるこころ』──知ってる?」
モンスターを乱獲し終えた男に問いかける。私の好きな七五調。
「え、何て? 馬がどうしたって?」
「馬を洗わば、馬の魂冱ゆるまで。人戀わば人、あやむるこころ。──塚本邦雄の七五調、知らない?」
ゆっくり区切って繰り返す。
「ごめん、知らない。どういう諺?」
諺じゃないんだけどな、と思ったけれど、面倒なので訂正しない。一口珈琲を啜ってから講釈する。
「馬を洗うなら、馬の魂が澄み切って鮮やかに見えてくるまで洗え。人を恋するならば、その人を殺すくらいの、深い真剣な心で愛せよってこと。おわかり?」
「はあ。なんでまた馬と恋?」
間の抜けた顔をする男。よくぞ聞いてくれたとばかりに、私は高らかに演説する。
「そこがこの歌の生命なんだよハル! まるっきり関係ないことをぶつけ合わせた衝撃力こそがこの歌の生命なの。わかる?」
私の勢いに押されたかのように、苦笑しながら頷く男。
「お、おう。衝撃力な。で、つまり何が言いたいのさ」
「馬を洗う極意が、恋の極意にも通じる。──つまりは人を恋するには中途半端な覚悟では駄目だって言ってるのよ。 恋をするなら命を懸けよってこと」
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