49人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
肆 『感幻楽』
いつからか、私は求めすぎるようになってしまった。
私が押し付けた『外科室』を傍らに置いて珈琲を飲む男を眺めながら、取り留めのないことを考える。
男の言葉を信じるなら、男は私を「愛している」。健全に。そして、私も男を愛している。狂おしく。
私はもっと深くて完全な愛が欲しい。その愛を永遠のものにしたい。その欲求を満たすには、男を殺すしかない。
ここまで連想して、なんだか田村俊子みたいだな、と自己嫌悪に陥る。田村俊子の小説は素晴らしい。でも、あの小説に出てくる女みたいにはなりたくない。間違っても。
「あい、何を見てるの」
男はいつの間にか取り出した光る板で、可哀想な野生のモンスターを捕まえようと手ぐすね引いている。今回男の餌食になったのは、モンスターというよりヤシの木のようなキャラクターである。いつものように《Excellent》なボールをぶつける男に
「何も見てない」
と答え、モンスターたちはモンスターなりに生きているのだから、捕まえないで放っておいてあげたらいいのにと思う。
「そっか。またぼうっとしてたから何見てるのか気になった」
私はよくこのひとに「何を見てるの」と問われる。男は、ぼうっとしているひとが「何を考えているのか」でなく「何を見ているのか」の方が気になるらしい。私は逆なのだけど。
それに私なら、ぼうっとしているひとがいたらそっとしておく。きっとそのひとの世界に没頭しているのだろうから。
最初のコメントを投稿しよう!