肆 『感幻楽』

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肆 『感幻楽』

 いつからか、私は求めすぎるようになってしまった。  私が押し付けた『外科室』を傍らに置いて珈琲を飲む男を眺めながら、取り留めのないことを考える。  男の言葉を信じるなら、男は私を「愛している」。健全に。そして、私も男を愛している。狂おしく。  私はもっと深くて完全な愛が欲しい。その愛を永遠のものにしたい。その欲求を満たすには、男を殺すしかない。  ここまで連想して、なんだか田村俊子みたいだな、と自己嫌悪に陥る。田村俊子の小説は素晴らしい。でも、あの小説に出てくる女みたいにはなりたくない。間違っても。    「あい、何を見てるの」  男はいつの間にか取り出した光る板で、可哀想な野生のモンスターを捕まえようと手ぐすね引いている。今回男の餌食になったのは、モンスターというよりヤシの木のようなキャラクターである。いつものように《Excellent》なボールをぶつける男に 「何も見てない」  と答え、モンスターたちはモンスターなりに生きているのだから、捕まえないで放っておいてあげたらいいのにと思う。 「そっか。またぼうっとしてたから何見てるのか気になった」  私はよくこのひとに「何を見てるの」と問われる。男は、ぼうっとしているひとが「何を考えているのか」でなく「何を見ているのか」の方が気になるらしい。私は逆なのだけど。  それに私なら、ぼうっとしているひとがいたらそっとしておく。きっとそのひとの世界に没頭しているのだろうから。
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