第2話

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

第2話

「あ、やっぱり藤花ちゃんも天馬くんもSクラスだね」 「よかったー! 今年一年もよろしく、らいちゃん!」  にこにこと手を取り合い笑みを浮かべる女子二人の横で、無表情に張り出されたクラス表を眺めている男子。その周囲にいる他の生徒たちは悲鳴や歓声、驚愕の声を上げながらざわついており、外部から飛翼学園高等部に入学したばかりの生徒たちは何が起きているのかと遠巻きにし困惑していた。それに気づいた内部生が、あれが我が学年の誇る騎士隊だと鼻高々に吹聴する。  そんな中早々に眉を寄せた渦中の男子、秋真が、隣に並び来夢と手を取り合う藤花の真新しい制服の袖を無表情のまま無言で引く。さっさと行こうという意思を感じたらしい藤花が苦笑しつつ隣の親友と手を繋いで歩きだせば、あああ、と残念がる声に混じり悔し気な悲鳴も聞こえた。少女漫画にありそうな光景に唖然とした外部生に、すごいでしょうと隣にいた内部生の一人が得意げに笑う。すごいのはお前ではないし、笑みを浮かべる状況とも思えないと、外部生、自称モブAはただただ口を引き攣らせた。  逃げることかなわず自称モブAは、彼らの説明を受けてしまう。  わたわたと慌てたように友人に手を引かれ追い駆ける花山院来夢は幼稚舎からこの飛翼学園に在籍する、生粋のお嬢様である。  栗色のふわりと柔らかい髪は日の光を反射して美しく輝き、人形のように美しい顔立ちと、やや自信なさそうながらも浮かべる微笑みはほっとするような優しさがあり、一部では嘲りを含んだ修飾語がつくものの「天使」と称されるのも納得の美しさ。かなりの人見知りでいつも一緒に行動している親友以外の前ではあまり積極的な行動を取らないが、それでも精鋭の集まりとされる警備騎士隊の一員であることは、内部進学生で知らない者はいない。  その前を歩くのが彼女の親友であり同じく警備騎士隊として知られる暁藤花。  ハーフアップにしたストレートの黒髪は美しく、容姿端麗、文武両道、愛嬌のある顔立ちに常に笑みを浮かべているが、ひとたび仕事となれば狂戦士とも称される警備騎士隊一の過激派と言われ、その笑みはむしろ悪魔であると散々な評判の付きまとう生徒である。が、その強さは折り紙付きだ。恐怖心もあるのか遠巻きにされることも多いが、一部の女子に熱狂的なファンがおり、男子を差し置いて親衛隊が組まれているとかいないとか。  そして先頭を歩き女子生徒の黄色い声を浴びているのは、銀にも見えるグレーアッシュの髪を持つ、恐ろしさを感じる程整った顔立ちに拍車をかける無表情の少年、天馬秋真。  非常に成績が優秀であり、狂戦士と揶揄される藤花についていける身体能力を持つ警備騎士隊員だ。冷酷無慈悲な彼が操る銃に狙われたら最後と生徒たちの間では有名であり、しかしいっそ撃ち抜かれたいとすら零す女子生徒もいる程の人物であるが、警備騎士隊以外の女子と会話を続けることがまずないという。その冷たさから敵が多いかと思いきや、男同士ではノリもよくふざけ合う様子も見られ友人も多く、狂戦士暁藤花のストッパー役ともあって男子のまとめ役だ。  いつの間にか数人が集まってまるでアイドルを語るファンのような輪が出来上がっており、晴れて高等部から難関と言われる飛翼学園への入学を決めた新入生たちは、戸惑いに視線を泳がせる。  結局最後まで噂話を聞いてしまった自称モブAは、現実逃避気味に考える。こんな漫画みたいな環境じゃ、現実だからこそ彼ら、大変なんだろうな、と。  昨今どこの学校でも学生警備隊は配属されているだろうが、特に高ランク能力者が集まると言われるこの飛翼学園。  他のクラスよりも人数の少ない、成績上位者のみが集められたSクラスに在籍となったらしいその噂の三人は、入学時点で既に警備騎士隊続投が決められているという。いくら内部生でも彼ら以外は今年度の新入生の新規隊員が発表されていないのだというから、特例だということは明らかだ。というより銃って。警備騎士隊に所属していても銃が扱えるのは確かほんの一握りではなかっただろうかと、外部進学生は遠い目で空を眺める。  どっと疲れて見上げる先で、ひらり、と舞い散る薄紅の花弁は、まるで新入生たちを祝福するようにその行く道を染めていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!