ケアマネのお仕事

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 実際100歳の方に希望を聞いた所で「あれがしたい、これがしたい」とはっきり言える方の方が少ない。体も弱って来ているので、ならばゆっくり寝て過ごせればそれで良いと言うのが本音では無いだろうか。自分だったらそうだときわ美は思う。  それをケアプランのために、やれクラブ活動だ、やれリハビリだと無理矢理引っ張り出すのは酷と言うものだ。  しかしそれがきわ美の仕事だった。 「まあ、何か決めなくては瀬戸さんも困るだろうから……そうだなあ……。じゃあ私の希望はお風呂にゆっくり入りたい、かな。私は温泉場で生まれ育ったからお風呂が好きなんだが、年や体の事を心配してか早めに上がらせられてしまうんだよ。もう少しゆっくり浸からせて欲しいなあ」 「分かりました! それで行きますね!」  やっと本人の希望を聴く事が出来たので、あとは計画書を作るだけだ。この分だと今日中には楽勝で出来上がる。  きわ美は意気揚々とケアマネ事務所に戻った。  パソコンで『介護サービス計画書 作成』のページを開く。文字を入力しながらきわ美はホッとした反面、自己嫌悪に陥っていた。  結局今日は村石さんが気を遣ってプランを決めてくれた。でももっと普段から会話をしていればこんな付け焼き刃みたいなプランじゃ無くて、本当に本人の望んでいる事をプランに出来たかも知れない。  いつもきわ美はこうだった。やらなくてはいけない事を後回しにしてしまい、締め切りギリギリになって慌ててやり始める。なので結局適当な仕上がりにしかならない。または出来上がらずに中途半端で終わってしまうとか。  学生時代の宿題もそうだった。夏休みの最終日に自由研究も工作も残りの勉強も、全て片付ける。今考えると自分は凄い集中力と手早さがあったんだなあと感心してしまうきわ美だった。いや、出来てしまったから今のきわ美がいる。学生時代はそれで良かったかもしれないが、社会人としてそのいい加減さは如何なものか。  まあ何にせよ、子どもの頃からの性格は幾つになっても変わらないという事なのだろう。  そんな事を考えながらもサービス計画書は出来上がった。きわ美は老眼鏡を掛けプリントアウトしたものを確認した。  そんな時ドアを叩く音がした。
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