きわ美の休日

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 年を取るというのはこう言う事かと、きわ美は自分で体験してやっと利用者さんの気持ちが分かり始めてきたと思った。  若い頃『高齢者体験セット』なる物を身に付けて高齢者の体がどんなに辛いかを体験する研修に参加した事があった。重りを付けたり麻痺の体験のために手足を固定したり、見えづらくする眼鏡を掛けたりして歩いた。確かに動きも視界も制限され「年を取ると大変なんだなあ」と思ったが、現実はもっと厳しい。そこに関節や神経の痛みが加わるのだ。その痛みに耐えながら動かない体を無理矢理動かさなければならない。いや、自分がなってみなければ本当の辛さは分からないものだと痛感する。  きわ美は常々「介護は想像力」だと思っている。実際自分は高齢者になった事も無いし脳梗塞になった事も無い。いくら勉強したところでその辛さは分からない。寝たきりで何年もベットで生活した事も無い。大人になってからは他人にオムツを替えてもらった事も無い。  きわ美は想像力を働かせる。自分だったらどうして欲しいか。どうされたら嫌か。  実際自立支援なんて言って自分で出来る事は自分でなんて利用者さんに言ってはいるが、自分だったら「出来ません」と嘘を言ってでもやりたくない。それが本音のきわ美だ。 「いい天気だ~」  ベランダに出るとちょっと暑いくらいのいい天気だった。もっと早く起きれば良かったと後悔した。とりあえず洗濯機を回し、部屋へ戻った。  さて、今日は何をしようかと考えた。やらなければいけない事。明日ゴミの収集日なのでゴミをまとめなければいけない。まあそれは夜でも、最悪明日の朝でも間に合う。部屋の掃除もしなければいけない。まあお客さんが来る予定も無いし、急がなくても良さそうだ。じゃあご飯を作ろうか。待てよ、材料が無い。買い物が先だ。でも出掛けるなら涼しくなる夕方の方が良い。じゃあ何をしよう。  取り敢えずテレビのニュースでも見ながらコーヒーを飲む事に決めた。  ニュースだけのつもりがドラマが始まり、好きなスポーツ番組が始まり、またドラマが始まり……。 「ヤバッ、こんな時間! スーパー終わっちゃった~」  仕方無くコンビニへ行き、夕飯と明日の朝のパンを買ってきた。そして食べながらテレビを見て、きわ美の休日は終わるのであった。
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