老人ホームあるある①

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「向こうで暮らすようになるから、当分会えそうに無いわ。もしかしたらもう会えないかも」 「そんな事無いでしょう。お産になったら帰って来るんじゃ無いですか?」 「帰って来たとしても私がいたんじゃ邪魔だから、またここにお世話になる事になると思います。いえ、決して家族の事悪くなんて思っている訳じゃないんですよ。みんな良くしてくれるし、孫娘は優秀で私の自慢なんですから」  ふふっと少し自慢げに笑って、長谷部さんは続けた。 「私も子どもを産んで育てましたから、子育ての大変さは分かっています。そんな中に介護しなきゃいけないおばあちゃんがいたら迷惑でしょ。私だったらそう思っちゃいますよ。今回のハワイは息子夫婦にはゆっくり楽しんで来て貰いたいわ。いつも私の介護で旅行なんて行けなかったし、それに息子たちだって娘を送り出す訳だから、きっと私なんかより寂しいはずよね」 「……長谷部さんていいお姑さんですね。長谷部さんちのお嫁さんになりたかったです」 「あら、毎日介護しなきゃいけないわよ」 「任せて下さい! 私介護得意なんで」 「まあ、30年前にお会いしたかったわ」 「本当に!」  そんな冗談を言って励ますしか出来ないきわ美だった。長谷部さんは笑って下さったがきっと寂しいはずだ。ご家族だって後ろ髪を引かれつつハワイへ旅立った事だろう。家族といえどもずっと一緒にいられるとは限らない。いつかは離れ離れになる時は来る。仕方無いが寂しい。その寂しさも大抵は毎日の生活の忙しさで次第に忘れられる。だが寝たきりの高齢者はそれが出来ない。寝ているだけだと余計な事ばかり考えてしまい毎日寂しさが募るばかりだ。  きわ美は今回の入所中に少しでも気晴らしをして頂きたいと思った。
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