八話目 「自殺をやめた理由」

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女の思考は当然の疑問である。 誰かのイタズラ……? 青光を浴びながら瞑想するように考え込む。 「ね゛え゛」 耳に、声が急に滑り込んできた。ひどく掠れた声だ。 プツプツプツっと鳥肌が立った。 半身だけ身体を捻り、首をめいっぱい回して後ろを振り返る。 「え、」 ズタズタに破れたシャツと下着以外何も身につけていない人が、いた。 少女であること、それしかわからなかった。 顔から足先まで正常な肉体が見当たらない。腕や足は明後日の方向に曲がり、全身から骨や筋が飛びだしている。 切傷、擦過傷、火傷、痣、打撲、骨折……素人目に見ても重体なのが一目瞭然な状態。なぜ立っていられるのか理解できなかった。 さらに、首はきつく麻縄の輪で絞められていた。 なのに、彼女は――眩しい笑顔を浮かべていた。 切れて赤黒く染みた唇を歪め、折れまくった歯が垣間見える。 どうして、どうして彼女は笑っているのか。 女は衝撃のあまり動けずにいた。すると、一歩、二歩と前に出た少女が、 「し゛さ゛つ゛し゛た゛ら゛、こ゛う゛な゛る゛よ゛?」 ――カーン、カーン、カーン―― 「あ、れ」 女はドンッと方を押されて姿勢が崩れた。両腕を振り回すが、重力が女の身体を下へ下へと落としにかかる。 停止しきれず、列車が…… 「おい!バカヤロウ!!」 肩が脱臼するほどの勢いで体が引き戻される。 後ろに流れた髪の毛に電車の先頭が掠った。 自分と少女だけだったはずのホームに、仕事帰りのサラリーマンが居たのだ。 何でこんなことした、飛び込みなんて馬鹿なこと……説教を食らった女だったが、突然の出来事の連続が全身を支配して反応ができない。 数分の後、自分が本当に死にかけたこと、それでも命が助かったこと、やっぱり死ぬのが怖いことを、確かに実感した。 ホームには、車掌とリーマンと女だけがいた。 その後、女は自殺願望を持たなくなった。
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