序章 死神

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序章 死神

 「時が来たのだ。」  誰かが耳元で言った気がした。  「選ぶがよい。どちらを捨てるか。」  誰かの声が、脳をくすぐる。  「命を捨てるか、心を捨てるか。」  誰かの声が遠ざかる。意識と共に、痛みと共に。その感覚は何かに似ていた。草臥れるまで働いて帰宅した夜の布団か、次第に記憶も曖昧になってゆく。薄れゆく意識のなかで、彼は心の中で叫んだ。  「まだ、死にたくない。」  「承った。その心を代償に、灯火を保とう。」  
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