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いつまでも…また夢の中で
…モゴモゴ…
「んーっ…んー…!」
暗くて狭い空間で、黒装束の男が身を拘束されて必死にもがく白い塊に喋りかける…。
「…彼女は、もうすぐ辿り着いて、ドリームソフトの電源を完全に切ってしまうだろう…。ククク…そうなれば、この二面性で保たれた世界は全て、我がバッドリームが支配することになる。楽しい夢ばかりが溢れ返る世の中に、我らは呆れ返る…。厳しさを教えるための悪夢も時には必要だ…。しかし、その夢比率は不平等だ…なぜ、敢えて体調が優れない時に悪い夢を見せるのか…。オセロの黒と白も…その性質は同じはずだ!」
バリリッ…。
彼は白ボディの口を塞いでいた粘着紙を剥ぎ取る。
「…っ!何てことを…」
可愛らしく必死な形相のまるまるムッシュは、反抗的な態度で彼を睨み付けている。
「…いや、もう遅い…!闇に包まれた暗黒夢物語の開幕だ…!ふははは…」
…チュンチュンチュン…ソフトで明るい青空で満たされる夢世界を目の当たりにする黒ちゃん…。
「あっ…あれっ…?」
………………ポチッ…!
夢恋は長押しはせずに、リセットボタンを軽く押していた。
「…あんな怪しい黒男を誰が信じるものですか!しかも、ムッシュはムー◯ンコスプレなんかしたことないから!姿形も喋る声も全く違う!!…っていう私なりの偽物説!」
ブォォォォォン…!
再起動…一旦のリセット…。
『設定が正常に戻りました。NEXT DREAM…』
「や、やった…やったー!!これで、全てが元に戻ったはず!」
夢恋は歓喜の雄叫びを上げ、勝利のガッツポーズを掲げた。
シュン…。
夢装置のある広間の隅に久々に登場した…ドリーエスケイプ。
私は安堵の表情で、自信たっぷりに、ドリーエスケイプに向かう。
「元に戻れるのね…。」
シュシュン…。
…………………悪夢は完全には消えないが、最悪な事態は免れた。
「早くここから出すんだ!夢恋ちゃんにお礼をいわなきゃ!」
黒装束は、観念したかのように小さく喋り始める…。
「新しき革命時代は…我らに微笑みはしなかったか…。ユメコ…彼女を選択したお前の判断は正しかったのかもしれないな…。」
ザッ…ブチィィ…!
拘束具を外されたムッシュ…はその場から離れようとする。
項垂れる黒闇の男を横目に走り出す…
「僕らは共に夢の世界の秩序安寧を願う存在…だからこそ、手を取り合わなきゃならない。欲深き人間たちには…反省の意を込めて悪夢を見せることも大切かもしれない…。でも、僕らが都合のいい夢を取捨選択して、与えてはいけないというルールが存在する…夢とは本来、その人自身の光と闇を映し出すものだから…。」
ムッシュはそう捨て台詞を放ち、闇を照らす場所から光を照らす場所へと解放された。
「あっ…夢恋ちゃん!」
タイミングよく迷宮前に姿を表した夢恋。
ムッシュの元気であどけない姿を見て、ホッと一安心…するも束の間…ムッシュに歩み寄っていく。
ズズズイッ…
夢恋は、固く握った拳を天高く振り上げる…。
「えっ…えっ…。ご、ごめんよー。後ろから急に羽交い締めにされて…。」
ポンッ…。
「えっ…!?」
ムッシュの頭に優しく手をのせる…。
その表情は今にも泣き出しそうな…。
「本当に怖かったんだからね…。」
「あっ…ごめんね…僕のせいで…本当に…。」
ギュッ…
孤独との戦い…現実を救うという使命からの重圧…抑えていた感情が爆発する…。
ムッシュは夢恋のハートの震えを敏感に感じ取っていた。
「僕はこれからもずっときみの傍にいるよ…。」
ムッシュは夢恋の頭を優しく何度も撫でながら、彼女の複雑な感情全てを受け止める…。
「ありがとう…夢恋…。」
………………………
「…ユ…ユメ…ユメコ…早く起きなさい!いつまで寝てるつもり?夕ご飯できたわよ!早く下に下りてらっしゃい。」
懐かしい匂いに誘われるように、私は階段を下りていく。
「おはよう…!ははっ…寝過ぎじゃないか?」
「今日はお赤飯よ。なんだか、無性に祝いたい気分で。夢恋好きでしょ?」
いつもと変わらない日常と非日常の両方を取り戻したんだ…。
…その日は久しぶりに家族団欒で昔の思い出を思う存分、語り合った。
『ふふふ…』
誰かが笑ったような気がした…。
………………………
家族でお墓参りにいく…。
私が生まれた時にはもういなかったお兄ちゃんがそこには眠っている…。
『夢生(むしょう)おにいちゃん、ながいたびからもどったら、いっしょにあそぼうね。 ゆめこより』
小さい頃に私が書いたお手紙が添えられている。
「お兄ちゃんってさ…天然だよね…?私と似ているかも!」
両親は驚いたような表情を見せながらも、そうだねと笑う。
「夢の中で、また会えるといいな…」
『きっと会えるさ…』
【完】
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