緋色の過去麻衣 目覚める

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緋色の過去麻衣 目覚める

 31歳・・・ビアンの経験をある程度重ねて来て初めて言える。 現代、これだけセクシャルマイノリティ―等について、社会・地域 の理解は深まっている。 しかし、その現場・現状では、なかなか難しく困難な壁は大きく そして、厚い気がしてならない。  職場、友達等の中に気になる女性、引かれる女性が存在したとしても 自身のセクシャルタイプを告白し、理解を求め・・・その相手と今以上の 関係を築くのは、ほとんど不可能と言っても過言ではないと感じる。 告白した後の事を考えると、とてつもない不安と恐怖を覚える。 だから・・・このままの関係でいい・・・。 時折、いつもの様に、一緒にお酒を飲めれば・・・。 愚痴を聞いたり、聞いてもらったり出来れば・・・。 それでいいんだ・・・。そう、自身に言い聞かせ蓋をする。 ビアンである女性の、共通の悩み・・・苦しみだと思う。 大学時代にスライドする。  2年生・・・私はバイトを探していた。その結果、隣駅の小さな 居酒屋さんに縁があり、そこでバイトを始めることになった。 ご主人と奥様で営む居酒屋さん。アットホームで時給も良かった。 そして、何より嬉しいのは夕飯のまかない付であった。 木・金・土、週末の3日そのお店で働いた。 そこで、運命的、そして奇跡的とも言える出会いがあった。 私がビアンであるという事を自覚させ認識させてくれた女性。 そんな、希少・・・そう希少な女性との出会いだった。  その人は、毎週金曜日の常連さん。「マリちゃん」(仮名)と お店では呼ばれていた。金曜日の夜、仕事帰りにその人は現れた。 「ほい!!マリちゃんお帰り・・・」と迎えられるほどの常連さん。 真理子さん(仮名)だった。 スーツを着て凄くかっこいい女性だった。当時43歳の独身・・・。 楽しい人だった。話も上手・・・。いつも9時頃に現れて2時間ほど 飲んで帰る真理子さん。私からは遥か彼方の大人に見えていた・・・。  疑問・・・真理子さんに対する疑問は日を追うごとに膨張した。 何故??独身なの?? 金曜の夜なのにデートしないの?? もしかして、イチバツさん??日が経つにつれ疑問は膨張するばかり。 お店のご主人からは、「真理子さんはいい会社に勤めているらしい」 としか聞いていなかった。「就職の時に頼れるかもしれない」 「だから仲良くしておきなよ」そんなアドバイスももらっていた。 その時は、大卒就職率はそれ程冷え切った状態ではなかった・・・。 翌年9月のリーマンショックを目の当たりにするまでは・・・。  真理子さんに対する疑問は、いつしか微かな憧れへと変化していた。 強い憧れではなかった、微妙なニュアンスの憧れ・・・。 「私も大人になったら・・・真理子さんみたいになりたいな」 その様な感覚で見ていた。  20歳の誕生日・・・お店のご主人と奥様から、お店で使う エプロンをプレゼントされた。そして、その2日後の金曜日には 真理子さんから、小さな花束を頂いた・・・凄く嬉しかった。 そして、この日真理子さんとアドレスも交換した。 この日を境に、真理子さんとの距離が接近していった気がする。 バイトが終わってから、一緒にカラオケに行ったり、ラーメンを 食べに行ったり・・・。私の中での真理子さんの位置は、母世代 と呼ぶには若すぎる、姉世代と呼ぶには年が離れすぎている・・・。 そんな感じだった。  その年の夏、私は帰省し、ご主人と真理子さんにお土産を買って 渡した・・・。その「お土産」がキーワードとなった。 お土産のお礼と称して、真理子さんからのお誘いがあった。 私は、何も考えずに快諾した。 土曜・・・最寄駅で真理子さんと待ち合わせをした。 電車に乗ったら、凄い雷雨の日だった・・・。 「面白い場所に行こうよ・・・まだ秘密よ・・・」 電車内で、笑みを浮かべ意味深な言葉を発する真理子さん・・・。 目的地は日本でも有数の繁華街だった・・・。 「軽くご飯しよう・・・」連れて行かれたのは、お寿司屋さん。 お寿司なんて・・・1年以上食べていなかった。 「ここが秘密の場所??」そう思ったが、あえて聞かなかった・・・。  「面白くて秘密の場所」雑居ビルの中にあった。 迷路のような廊下、数々のお店の看板・・・少しドキドキした。 カラオケの声が聞こえたり、大爆笑が聞こえたり・・・。 その中の一軒の店に入った。。。「ビアンバー」だった。 外見からは普通のお店だった。 でも、オーナーとスタッフは全て女性。お客も全て女性・・・。 私と真理子さんはカウンターに座った。ここでも真理子さんは 常連さんだった。男装のスタッフが1人・・・。イケメン。    楽しかった・・・すぐに打ち解けられた。 真理子さんは、自分がビアンだとは一言も言わなかった・・・。 「男は面倒・・・女同士の方が何をするにも気楽でいいわよ」 「だから私は、時折ストレス発散しにこのお店に来るのよ」 そう私に話してくれた・・・。 男装のレイジさんが、そこに被せてきた・・・。 「男と旅行なんかしても・・・女はうんこするにも気を使うもんな」 大爆笑だった・・・。大人の世界。その中を垣間見たような気がした。  12時でお店はCLOSE・・・真理子さんと私はお店の近くのバー へ移動・・・1時間程でお店のスタッフ何人かが合流。 そこで、始発電車まで楽しく過ごした。今まで、あんなに楽しい 時間を過ごした事は無かった・・・。 帰路の電車の中で真理子さんは・・・。 「今日の事は内緒だよ」そう言った。私は、目を見て大きく頷いた。 聞けなかった・・・どうしても聞けなかった。 「真理子さんはビアンさんなのですか??」聞いてみたかった・・・。  最寄りの駅に着いて、真理子さんは反対方向へ帰る・・・。 西口と東口へ別れる・・・。私はお礼を言って頭を深々と下げた。 真理子さんは「エヘへへ・・・」と笑いながら。下げた頭を両手で 押さえてきた。そして私のつむじあたりにキスをした。 「またね~内緒だぞ~忘れんなよ~」と言いながら私に背を 向けて帰って行った。 キューンとした・・・カッコいい!!! 私は、歩きながら何度も中指でつむじをゴシゴシとして・・・。 その指の匂いを嗅いだ・・・「匂い大丈夫だった??」心配だった。  帰宅してシャワーを済ませて・・・。ベッドに倒れ込み・・・。 爆睡の予定だったが・・・身体は眠りを要求していても頭が冴えて 眠れない・・・走馬灯の表現が正しいか判らないが・・・。 楽しかった場面が脳裏をグルグルと駆け巡る。 ベッドの中で1人でニヤニヤ、そしてケタケタと笑う私・・・。 何しろ私は・・・影響されやすいし、染まりやすい・・・。  影響されやすい私・・・。その日の夕方目が覚めてからは 真理子さんの事が気になって気になって・・・。 携帯を見ても、真理子さんからのメールは着てない・・・。 「メールしちゃおうか・・・」「まだ寝てるかもね・・・」 「どうして?私の頭にキスしたの?」 「真理子さん、本当はビアンさんなの??」 悶々とベッドの中で仰向けに寝たまま、携帯をおでこにのせて 念じ続けた・・・「真理子さんメール頂戴・・・」  エアコンはついているのに・・・身体が火照る。 身についているものは、Tシャツとパンティだけ・・・。 その身体を、夏用のタオルケットが包み込んでいる。 時刻は午後6時を過ぎていた。まだベットから出られない私。 擬音で、その時の身体の状態を表現するなら・・・。 「ヌチャ~・・・」だろうか。 私は、体制を変えてうつ伏せになり、顏を横に向けて 携帯を見つめていた。メールが来た!!!! 私は、携帯に飛びついた。  真理子さんからだった。 「もう起きたかな?楽しかったよ。楽しかったついでに」 「今夜、予定がなかったら駅近で軽く夕飯どうかな??」 嬉しい!!!即返信・・・。「はい。いいのでしょうか??」 「東口のタクシー乗り場の前で8時に!!!」真理子さんから 返信が即届いた。 「あぁぁぁ・・・」何故か、重たかった身体が軽くなり 緊張の糸がプツンと切れた感じがした。それと同時に 切ない気持ちが湧いてきた。不思議な感覚だった。 「あぁぁぁ・・・」と言う気持ち。 うつ伏せのまま、枕に顔を埋めて泣いていた・・・。 でも、悲しくて泣いたのではない・・・。  うつ伏せで、私の両手はパンティ越しの股間にあった。 そして、ゆっくりと指を鍵状に曲げてお尻を上下させた。 あの時、どうしてあのような自慰行為に走ったのかは判らない。 あたる・・・敏感な部分にパンティの布越しの指が・・・。 その都度、ジュワーン・・キュンキュンと切ない快感が 身体を包み込む。子宮が小さく脈打つ・・・。 横を向き時計を見る・・・18:35・・・。 「もう少し大丈夫・・・」 目を閉じて・・・再び枕に顔を埋める私。 昨夜から、私の知らない所で身体と脳は昂ぶっていたのだろう。 触れ初めて、3分もしないうちに最初の大きな波の予兆を感じた。  両足は意に反してピーンと突っ張り・・・。 息が荒くなる・・・。 枕で息が苦しい、私は横を向いた。 鳥肌が全身を包む・・・。 そして激しくお尻を上下させた。 「あぅぅ・・・イャだ・・・イャだ・・・」 テレビの音が遠のいて、視覚がぼやける・・・。 ベッドが微かにギシギシと軋む。 「あぁぁ…来る!!!来そうよ!!」 そのベッドの音も完全に遮断された時・・・。 私は「真理子さん来そうよ!!!真理子さん・・・」 と声を上げた。次の瞬間・・・。 幸せと快感の細かいたくさんの気泡が子宮から全身に放たれた。 枕から顔をあげて全身をエビ反りにして・・・。 叫ぼうとする声を堪えた。首筋の汗・・・腋の汗・・・。 そして、押し付けられた胸の谷間の汗・・・。 全てを洗い流して逢いに行かなくちゃ・・・。            
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