ここで会ったが百年目!

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ここで会ったが百年目!

「ここで会ったが百年目ぇ!」 「はいはい、まだ五十年しか過ぎてないからね」  突如聖剣を抜いて斬りかかってきたソイツを、僕はひょいっと避けてかわした。聖剣と呼ばれるだけあって、奴が持ってきたその武器は重い。超重いったら重い。一回振り上げて振り下ろすと簡単に軌道修正できないくらいに重いのだ。 「よ、避けんなば……ぎゃーーーーーー!!」  哀れそいつは、僕が乗っかっている雲の横をかすめ、真っ逆さまに地上に落下していった。――毎回同じ轍を踏んでいるのに、どうして反省しないのだろう。此処は空の上だ。小さな移動雲に乗って、超絶重いジャンプ斬りなんてかまして相手に避けられたら最後。そのまま足場を失って遥か彼方の地上に墜落するのは当然のことではないか。 ――あーあまた地震が起きるよ。……人里に落なかっただけマシだけどさ。地上の人達も可哀想に。  僕は呆れながら、すいすいと移動雲を操ってその場を離れた。あんなアホのことなんか知りません見てません赤の他人ですと言わんばかりに。  この広い広い世界は、僕と彼が二人で作った。いわば、僕らは神様というヤツである。といっても二人で協力して作ったわけではない。たまたま何もない暗闇で僕が世界を作ろうと唸っていたら、すぐ傍の暗闇で同じように世界を作ろうとしていたアホがいたという、それだけのことなのである。  それを見て、彼は一方的にライバル心を燃やしてきたのだった。僕らはどちらも、新しい世界を作れと最高神に命じられたばかりの新米の神様であり、力量が拮抗していたというのもある。彼は対抗して、どんどん僕の作る世界の方に自分の庭を広げてきた。僕もだんだんムキになってしまったものだから、さらに彼の方にぐいぐいと腕を伸ばしてしまい――挙句僕らは殴り合いの喧嘩になり。結果、僕ら二人が作っていた世界はくっついてしまったのである。  焔のように熱い彼は、太陽が照りつけマグマが噴き上がる暑い暑い国を作った。  氷のように冷静な僕は、雪の大地に爽やかな風が吹き渡る寒い寒い国を作った。  まさに、僕らの正反対の性格を象徴していると言っていい。僕らは互いに世界を構築しながら、隙あらばもう片方の世界を飲み込もうと何十年にも渡る喧嘩を開始したのである。 『約束しろ!俺が勝ったら、お前の世界をすべてもらう!氷の冷え切った世界なんてナンセンスだぜ、これからの時代で栄えるのは、俺のように熱いハートを持った焔の王国なのさ!』 『馬鹿言ってんじゃないよ、頭まで沸いてるの?君の王国は暑すぎてすぐ水不足になり、乾燥と熱に耐えられる一部の生物しか生き延びられない地獄のようになっているじゃないか。僕の世界の方がずっといい。水が豊富で、寒さに順応した生き物が慎ましく穏やかに暮らしているじゃないか』 『は、お前の言葉はブーメランなんだよ!お前のところだって、寒さに適応できない生き物がバンバン死んでってるくせに!水が豊富つったって、みんな凍っちまってるんじゃ意味ねーだろうが!!』 『なんだって?』 『何をぉ!?』  そんなこんなで、五十年。僕らが作る世界は、僕ら自身よりもずっと速く時間が進んでいく。僕が世界を見守りながら、新しい文明の種を撒いていると、彼はいつも雲に乗って現れるのである。神様から与えられた武器はいくつもあるのに、一番重くて使いにくい大剣にばかりこだわるものだから――いつも僕にいなされて、自滅して、地面に落ちていくのだ。そのたびに地震が起きて、地上の人達がびっくりする羽目になるというのに。  そして、会うたび言う言葉は決まっている。ここで会ったが百年目!だ。 「だから。百年も一緒にいないっていうのに。ていうか、あと五十年も君の顔を見なきゃいけないなんてごめんなんだけど」  やらなければいけない仕事はいくらでもある。僕は氷の世界の気温や気候を少しずつ調節し、少しだけ暖かい場所と極寒の土地とに分けることに成功した。そうすることで、生き残ることのできる生物や生態系が複雑になり、より多くの生命を生かすことができることに気づいたからである。  寒くとも夏になると雪が溶ける国では、知能を持った“ニンゲン”の姿も見られるようになった。彼らは凍った大地を耕し、家畜を飼い、寒い土地に適応した植物を植えて少しずつ文明を開きつつある。これからどんな高度な世界が出来上がるのか、楽しみでならない。――そう、僕は、あんなアホに構っている場合ではないのだ。やるべきことを数えたらキリがないのだから。 「……いっそ、僕からあいつを討ってやろうか。あいつのわがままで、灼熱の国に住まわされている住人達も気の毒だ。僕があいつの世界をすべて手に入れれば、きっと奴の世界に生きている人達のことも幸せにできるに違いないし」  本当の百年目はない。必要ない。準備が整ったなら、今度は攻撃を避けるのではなく――返り討ちにしてやろう。  僕はそう考えて、迎撃の準備を整えることにした。神様から貰った人の心を惑わす笛、遥か地平の彼方をも狙える弓、どんな鋼鉄の一撃をも耐える盾――武器はいくらでもある。神同士とはいえ、神を完全に殺す手段などないが。それでもダメージを与えて、この世界から完全に追い出してしまうことはできるのである。
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