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敵陣の中を潜り抜けて、ようやく指示された船に辿り着いた。
確かにこの船一帯だけ、鎖を外されているようだ。
桃香「全く、余計なことしてくれちゃって……」
まぁ敵からすれば当たり前のことをしてるだけなんだろうけど。
「……それに触らないでくれるかい?」
静かな声に、私は振り向いた。
剣を持ち、私を見下ろすほどに背の高い男がそこに居た。
桃香「……もしかして、貴方が元直さん?」
徐庶「……俺を知っているのかい?君とは初めて会うと思うけど…」
桃香「うん、初めてだよ。貴方のことは士元さんから聞いたの」
徐庶「士元に?…そうか、士元は無事連合軍に戻れたんだね。さっき謀反とかで騒いでたから心配だったけど…よかった」
彼の言葉は、きっと本心だ。
だって、顔が安堵してるもん。
桃香「で、私は士元さんに頼まれてこの鎖を繋ぎ直しに来たの。邪魔しないでくれます?」
徐庶「それは予想がついてたよ。悪いが、それは諦めてくれ」
桃香「諦めるワケないじゃない。邪魔するんなら、私も容赦しないけど?」
徐庶「……女性といえど、大役を任せられる程なら…仕方ない。悪いが、俺は手加減はできないよ?」
桃香「ご自由にどうぞ」
私は槍を構え、元直さんに向かって突撃した。
いくら武に長けてると言っても、それは護身程度に……とばかり思ってた。
けど……
桃香「うわっ?!速っ!」
この男、本当に強かった。
手加減なし、という言葉も頷けるくらい容赦なかった。
孔明さんや士元さんと同門っていうから、すぐ退かせると思ったのに…
徐庶「……強いんだね。君のような人が居るなんて思わなかったよ」
桃香「貴方も。まさかこんな強い人だなんて思いもしなかった。おまけに頭もいいなんて、なんかズルいね」
徐庶「…………」
元直さんは黙り、また剣を振る。
それを受け止める中で、感じたもの。
この人には、殺気がない。
手加減こそしていないのに、私を殺そうとかそういう感情は入っていない。
むしろ……
彼からは悲愴感を感じた。
ただただ、悲しみに満ちた心。
……この人、なんなんだろう?
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