17人が本棚に入れています
本棚に追加
現実と幻想の交差
最近、私は雲兄に槍ではなく馬の乗り方を教わっていた。
この時代では、馬が唯一速く動ける手段だったこともあり、乗りこなせるようにと雲兄及び義父さんから命令を受けた。
幸いにも、私に与えられた馬が私に懐いてくれた為乗って歩くだけなら早い段階で覚えることができた。
そんなある日のこと。
「桃香殿」
鍛錬中に、私を呼ぶ声が聞こえて振り向くと…
桃香「あ、月英さん!こんにちは!」
そこには孔明さんの奥さんである月英さんが立っていた。
月英「精が出ますね、桃香殿」
桃香「いえいえ、これくらいはまだまだです!ところで、月英さんはどうして此処に?」
月英「…少し、貴女とお話がしたくて。今よろしいでしょうか?」
桃香「あ、はい。雲兄に断ってきます」
月英さんとは、割と仲良くさせてもらっている。
とは言っても、普段話す時は大体孔明さんも一緒に居るから二人きりで話すことはなかった。
けど、今日は孔明さんが居ない。
雲兄に許可をもらって、私は月英さんと共に歩き出す。
月英「鍛錬中だというのに、申し訳ございません…」
桃香「いいんですよ。でも月英さん自らのお呼び出しなんて珍しいですね?」
月英「そうですね。普段は孔明様を通してお話を聞かせて頂いてましたから」
そう、普段月英さんは孔明さんを通して私を呼ぶことが多かった。
というのも、月英さんより孔明さんの方が会う確率が高かったからだけど。
桃香「でも、わざわざ月英さんが呼びに来るって…なんか重要なお話が?」
月英「えぇ、まぁ…。これは孔明様を介してお話したいものではなかったので…」
なんか悩み事だろうか?
月英さんの表情からはそう見えた。
月英さんの室に着いて、私は月英さんが淹れてくれたお茶を口にする。
うん、月英さんの淹れるお茶は相変わらず美味しい。
桃香「それで、私に話って?」
月英「はい。その…実は…子のことで…」
子?子供のこと?
桃香「って、月英さん達子供居ましたっけ?私まだ見たこと…」
月英「あ、いえ…そうではなく…、どうしたら御子を授かれるのかと…思いまして…」
桃香「へっ…?」
まさか、作り方知らない?
……というのは早とちりだったみたいで…
その後月英さんは少し言いづらそうに、私に悩みを打ち明けた。
どうやら、孔明さんとの子が中々授かれず焦っているらしい。
幾度か子作りを試みるも、懐妊の気配すら見せないとか。
急いでいる訳ではないが、中々夫の子を孕めないのはやはり不安になるとのこと。
私にこの悩みを打ち明けたのは、私が未来から来ているのでこの不妊の原因を解明出来るのではないかという思いだったそう。
桃香「……なるほど。要は孔明さんとの子供が欲しいのに、中々授かれないから不安で仕方ないと…」
月英「……はい。孔明様の御子を授かれなかったら、私は離縁されてしまいます……」
桃香「り、離縁?いやぁ、それはないんじゃ…」
月英「子孫を残せぬ女など不要なのです!諸葛の血を絶やすなど、最大の不幸となってしまいます!」
月英さん曰く、子孫を絶やすということは家柄云々の前に最大の不幸であり先祖への裏切りを意味するらしい。
そういや、この世界は儒教なんだっけ。
でも、孔明さんはけっこう月英さんに惚れ込んでるっぽいから離縁とかなさそうだけどな…
それでもやっぱり、不安で堪らないんだな…
最初のコメントを投稿しよう!