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4.
キンッ。
ジッポーライターが独特な音を響かせた。
胸いっぱいに煙を吸い込み、少しだけ身体の中に留め、吸い込んだ時と同じ様に大きく息を吐き出した。
それと同時に辺りがバニラの匂いに包まれる。
うつ伏せにしていた上半身を捻りながら起こし、枕を立てそれに背中を預ける。そして、左手をサイドテーブルに伸ばし、灰皿を手にした。
再び煙を吐き出すと、
「・・・早いね」
と、隣から声がかけられる。
首を捻りそちらに視線を向けると、こちらを見ている気怠い視線と重なった。
「声、がさがさ」
「誰のせいだっての」
「俺のせい」
悪びれもせずそう言ってやると、大きく溜め息をつかれた。そして伸びてきた手に煙草を奪われる。
「・・・まず」
「匂いのついた煙だしね~」
「匂いは美味しそうなのに・・・」
「でしょ? ルーが好きそうだと思ってこれにしてみた」
煙草を奪い返し、不機嫌そうに突き出された唇にキスを落とす。
鼻にかかった吐息に、散々吐き出したはずの欲がゆっくりと首をもたげるのを感じ、キスを深くしようとし少しだけ唇を離すと、隙間に手を突っ込まれた。
「ダメ」
間近で見るルイスの目の周りは、昨晩の営みの影響でまだどことなく赤く、そして腫れぼったい。
「ダメ?」
「ダメ」
「どうしても?」
「どうしても」
綺麗な細めの眉がきゅっと顰められたのを確認し、渋々身体を離した。名残惜しさを紛らわせる為に、再び煙を体内に取り込む。
「・・・ん」
隣から衣擦れと共に色っぽい呻き声。
そして、俺と同じように枕を立て掛けそれに背中を預けると、ほうっと溜め息を吐いた。
「エロい声」
「馬鹿なの?」
「ひっど。貴方にぞっこんなだけなのに」
すると、俺の言葉に応えずこちらを見つめてきた。
その心の奥底を見通す様な瞳に、どきりとする。しかし、それを見せるのも癪なので、冷静を装い言葉を投げかける。
「なに?」
さらにじっと見つめた後、「俺の事好きなの?」と聞いてきた。
俺やザンと肉体関係を持つようになり数か月経つというのに、純粋無垢な顔で聞いて来る彼に、心底驚く。咄嗟に反応が出来ない程に。
「・・・・・・は?」
「俺の事好きなの?」
「何を、言っているのかな?」
「だから、」
「それは分かったから」
「で、どうなの?」
「どうって・・・」
驚きの混乱した頭。あまりに混乱しすぎて、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
そのまま暫く見つめ合っていると、不意にルイスの瞳が俺の左側に移動する。そして、「灰」と短く指摘され、指で挟んだままの煙草を思い出した途端、指先に熱を感じた。視線を移すと今にも落ちそうな程長くなった灰を慌てて灰皿に押し付ける。
それでいくらか冷静さを取り戻した僕は、
「好きじゃ足りない程、愛してる」
と、一言言った。隣で息を飲む音が聞こえ、次いで衣擦れの音。
布団が引っ張られる感じに視線だけ彼に向けると、布団の中に潜り込みこんもりと山を作っていた。
灰皿を再びサイドテーブルに置くと、身体を捻り肩と思わしき膨らみに手を乗せる。
瞬間、強張りを感じるが、気にせずそのまま身体を摺り寄せそっと布団を剥ぐ。抵抗はあったものの、優しく名前を呼んでやるとそれは無くなり、真っ赤に染めた顔が出てきた。
「ふふ、真っ赤じゃん」
「・・・うっさい」
「喜んでくれて嬉しい」
「うっさいってば」
ぐっと眉間に皺が寄り、唇が不機嫌そうに突き出される。
おっと、これ以上は本当に臍を曲げてしまうぞ。
だけど、俺も聞きたい。
聞いてみたい。
君はすぐに本心を隠そうとするから。
ね、教えてくれるよね?
「ねえ、ルー」
視線だけでなんだと聞いてくる。緩みそうになる表情を真剣なものに保ちながら僕は聞いた。
「僕らの事、好き?」
終
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