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宇宙人にさらわれた
宇宙人にさらわれた。
高校生になって一年半、勉強、部活、恋愛、おれは何もかも中途半端にしかやってこなかった。青春を謳歌したい、何か大きなことを成し遂げたい、想いはあってもおれは成功まで至らない。一歩を踏み出す勇気がない、そんなおれはどこにでもいる高校生だ。
おれは宇宙人にさらわれた
薄暗い空間の一室の中央におれはいる。何かの台に乗せられて、なにかに縛られているわけではないのに全くもって身体が動かすことができない。金縛りのような状態の中、目線を落とすと、抵抗することを放棄した横たわっている自分の足が見え、その視線の先にはマンホールくらいの大きさの丸い窓よがありこの息苦しい空間とは違う開放感に満ちた宇宙が広がっている。
自分の置かれている状況に、確信づいた証拠のようなものはない。ただ、窓越しに広がる宇宙空間であったり、朦朧とした意識の中で見たこの台におれを乗せた頭と目が異常にでかい宇宙人、事実、ここは間違いなく地球ではない。もしこれがテレビのドッキリだとしても、どこにでもいそうな普通の人間にかける予算や労力じゃない。
生きて帰してもらうことだけをおれは心の中で祈るしかなかった。
すると急にこの空間の一室が明るくなった。電気のようなものはないのに室内が明るくなったのは奇妙で、なによりもなにかが始まるのではないかという不安が徐々に増えていった。そして自分の頭の後ろの方でドアのようなものが開く音がしたと思ったら、目の前にひとり、自分を連れ去った宇宙人が現れた。その手には俺のスマホを持っている。
テレビでよく見る宇宙人のタイプそのままで、テレビで見た作り物感とはまるで違う生々しい肌質。やせ細って弱々しいのに、そこから伝わる不気味さだけで、背筋が凍りそうな想いだ。
おれはこの宇宙人にさらわれた
「ふざけんなよ宇宙人、おれを地球に帰せ!!!」
恐怖をかき消す勢いでおれは声に出して叫んだ。
すると、何かの準備をしていた宇宙人はこっちを向いた。表情が一切変わらず、感情がないロボットのようである。おれは殺気を感じたわけじゃないが、その気味の悪さに目をそらした。すると、自分の頭の中でラジオの周波数が合わさるような感覚に陥り、直接脳に無機質な声が響いてきた。
「聞いてたとうり地球人は感情的だな、面倒ではあるが、そこが魅力でもある。大いに実験に貢献してもらおう」
男性でも女性でもない聞いたこともない機械的な声が頭の中でかき乱すように広がっていく。これがテレパシーなのか。
次に宇宙人は右手に持っていたスマホを俺の顔に近づけた。画面が表示されロックが解除されると、
「顔認証か、悪くない。利用価値は十分にあるな」
と、テレパシー越しに関心を示していた。
「ああああああ!!!!!」
「血液とDNAを採取しているだけだこの程度で悲鳴をあげるのか」
左手の小指に強烈な痛みが襲った宇宙人の手によって自分の小指がチューブのようなものに差し込んだ矢先のことである。スイッチを入れたような仕草はなかったが、待ったなしに激痛が伝わってきた。
「次の実験まで、ひとまず時間を置く。ストレス値が高い、身体を休めろ、地球人対象者」
そういって宇宙人はこの一室から出ていった。
日常では味わないこの空間とこの痛み、おれはもう、帰れないかもしれない、先のことを考えると気が気でいられない。
「地球の人、、、ですか?」
その時、隣から、か弱く細い女性の声が聞こえてきた。
「え、、」
突然のことで、おれは言葉が詰まってしまった
「あの、地球の方ですか? 私、さっきまで眠ってて、あなたの悲鳴で起きました。あなたと同じで私もここに連れてこられたんです」
「あ、あなたも」
死を覚悟した矢先のこと、救いのようにも感じたその声の主は、どうやらおれと同じ地球から宇宙に飛び出したもう一人の日本人被害者らしい。目線しか動かせない状況と恐怖のあまり隣に他人がいることを俺は気付かなかったのだ。
「私、中村ゆりっていいます、岐阜の飛騨地方の高校に通ってて、夜、バイトから家に帰ってて、そしたら、夜なのに急に強い光が差して」
「おれも高校生です。愛知県の名古屋の高校で、確かおれも夜にコンビニに寄ってその帰り道に」
お互い身動きが取れない状態で台に乗せられて、姿は確認できなくても、おれは会話の中でどこか彼女に親近感を感じた。偶然にも高校生で、夜の帰り道で連れ去られて、共通する部分が多かった。
「血を…抜かれたんですね」
「じゃあ中村さんも」
「うん。私たちは無差別に連れられた地球人としてのモルモットだと思うの。痛みでは済まないような実験がきっとこれから控えてる」
「なんで俺らが…」
となりに誰かがいる安心感はあっても、この場の状況を考えると何もかもが苦しくなってしまう。気休めでもいいからおれは、話を別の方向に切り出した。
「バイトしてるって聞いたけど、勉強も部活もあと恋愛とかもいろいろやることあって大変だったんじゃないの?」
彼女は急な質問だったのか、すぐに返事は帰ってこなかった。息をのみ込んだあと彼女は答えた。
「私さ、いろいろやってないんだ。私の家はあんまりお金がないから、必要なものを自分で稼がないといけないの。今は弟の塾に通うお金も必要だし、部活とか恋愛とかは私は経験がないの。気を紛らわそうとしてくれたのにごめんね。場が和む面白い話は君から教えてよ」
とっさの質問ではなく、ただ質問を質問で返されただけなのに俺も彼女と同様にすぐには返事ができなかった。
「おれも……大したことしてないし、なんもないなー」
苦し紛れの発言になってしまった。
「私たち結構似てる部分多いね、偶然ここに連れてこられてきたとは思えないな」
「…そうですね」
言葉が出なかった、似てるところは多いけど、彼女とおれは根本的なところが違う。
「彼女とかいないの?話しやすいしきっとモテるでしょ」
「もっモテないよ、大したことしてないし」
「図星かな〜、でももし生きて帰ることができたら、君に会ってみたいよ、取れるかわかんないけどなんとかバイト休みとってさ、もっと気持ちよく星が見えるところで君と話がしたいな」
「…その時は器の大きい人間になってるよ、だから、待っててね」
意気込んだこの言葉については―――深く彼女は聞いてこなかった
その時、またしても部屋が明るくなり、宇宙人が入ってきた。
今回は人体を調べるような機器は持っていなく手ぶらの状態で目の前に現れた。想像もできない次の実験に恐怖しながらもとなりでおれ以上に怯えているだろう中村ゆりに矛先が向かわないよう自ら宇宙人をにらめつけた。
しかし、宇宙人は表情ひとつ変えることなく、またしてもテレパシーで話しかけてきた。
「次の実験をする前に、君達二人に選択肢をやろう」「生きて惑星地球に帰るか」「このまま対象者として残るかだ」
「そ、そんなの、生きて帰るに決まってるだろ!!早くおれらを解放しろよ!!」
おれは身を乗り出す勢いで言った。当たり前だ。
おれの決意を証明するんだ。
「選ぶのはそれぞれが一択だ。女とお前どちらかしか生きて帰れる選択肢はない。実験対象は一人だけで十分だと決定した。我々は情はないがそこまで非道ではない。どちらかを助けてやろう。さあ、この場で選べ。猶予は地球の時間でいうところ60秒、決められなければ両者ともに対象者になる」
言葉を失った。どちらかしか助からない、彼女はどう捉えているのか、さっきから一言も発しないってことはやつらに怯えてしまって声がでないか、それとも選択に迷っているのか、どうすればいい、1分以内に答えなきゃどっちも助からない。どうする、どうする、
今まで以上に身動きできないこの状況を打開しようと心も身体も、もがいている自分がそこにいた。
これまでなにもかもが中途半端な生き方だった。そんなおれが生死を伴うこの状況で自分を変える決意をすることができた。あとは地球に帰って動くだけなんだ。でも、そしたら彼女は帰れない。そもそも俺より生きる価値のある中村ゆりを退けてまで、自分勝手なのは傲慢なんじゃないか?
「残り30秒」
選択に迫られる。でも、ここにきて答えと決断がだせない。俺はとっさに聞いた
「ゆりちゃん、君はどうしたい!!」
責任を逃れ、他人に委ねたわけじゃない。これは相談だ。
でも、これまで安心感を与えてくれていた彼女から発する言葉はもうない、まるでそこに誰もいないような感覚。ほんとうに怯えているんだ。
「残り10秒」
時間だけが過ぎていく。ここでおれが帰る方を言い切れば明日から新しい希望に満ちた人生が始まる。もう、決まりだ、決まりなんだよ
「残り5秒」
「---もっと気持ちよく星が見えるところで君と話がしたいな---」
…そうだ。彼女が助けてくれたんだ。おれにきっかけをくれたんだ、おれがしなきゃいけないのはゆりちゃんを救うことだろ!!
「3.2.1 」
「俺がここに残る!!!!!」
おれは中村ゆりを救うためにこの宇宙人にさらわれたんだ。
「管制塔管制塔。こちらブロマバース号 」
「ブロマバース 信号を受信した、報告どうぞ」
「地球に住む人間は二つの点において資料とは違う行動をあった。まず技術面での進化は著しい。対象者が所持していたibhone という機器。性能は非常に高くそれを民間人が所有できるほど技術は進化している。」
「それは、脅威だな、消滅リストに加えるか?」
「いや、必要ない、精神面での進化に期待ができる。ibhoneの蓄積されたデータをもとに作り上げた〖地球人型人工知能〙と交流させる心理実験の中、対象者は人工知能に対し利他的な行動をとった。我々にはない〖感情〙が対象者を動かした。惑星地球は現状維持でもう少し様子を見ることとする」
「了解」
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