夏休み

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「遙人君、彼氏さん来たよ」 南さんが玄関から俺に声をかけてくれたので、リビングから玄関に向かう。 「蒼太…………」 蒼太は俺の姿を見て、一瞬息を飲んだ。 南さんのブカブカのTシャツにブカブカの短パン…みっともないって思ったんだろうな。 「遙人………服、どうしたの?」 抑揚のない声で蒼太が聞いてきた。蒼太の顔色は真っ青だ。蒼太も具合悪いのかな…悪いのに無理して迎えに来てくれたのかな。 「吐いて汚れちゃったから…南さんが洗濯してくれて…。まだ乾いてないんだ…」 情けなくてぎゅっと唇を噛む。 「とりあえず帰ろう。車で来たからそのままでも大丈夫だから」 俺の手を引いて胸に抱き寄せてくれた。 ふわっと蒼太の香りがする。やっぱり安心するな。 「遙人がお世話になりました」 蒼太が深々と南さんに頭を下げたので、俺も急いで一緒に頭を下げた。 「遙人君、またね」 南さんが俺の頭を撫でようと手を出した…その手を蒼太がガシッと掴む。 「あの、遙人は俺のなんで。触らないでもらってもいいですか?」 ピリピリと空気が張りつめる。 頭なんていつも撫でられてたけど、あれもダメだったんだと今知ってしまった。 「遙人君は遙人君でしょ。君のモノではないと思うよ」 蒼太の手をやんわりとほどいて南さんが真顔で言った。 「じゃ、遙人君またね」 俺にニコリと笑って、南さんは玄関のドアを閉めた。
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